火の中の救世主
数日後、その男――ストーカーと思われる人物――の行動がエスカレートした。


カフェで働いている美咲に対し、突然こんなことを言い出したのだ。

「君、俺と付き合わない?毎日こんなところで働いてるより、俺が幸せにしてあげるよ」

その言葉には明らかな執着心が滲んでいた。
美咲は冷静さを保ちながら、

「申し訳ありません」と断った。

しかし、その男は笑みを浮かべながらこう続けた。

「君には俺しかいないよ。他の奴なんて信用できないだろ?」

その瞬間、美咲は恐怖心で体が震えるのを感じた。
それでも毅然とした態度で、「失礼します」とその場を離れた。



その夜、美咲がアルバイト先から帰宅する途中、事件は起こった。

ひとけの少ない路地裏で、その男が待ち伏せしていたのだ。

「やっと二人きりになれたね」

背後から声をかけられた瞬間、美咲は足がすくんだ。

振り返ると、その男がニヤリと笑いながら近づいてくる。

「逃げない方がいいよ。俺、お前みたいな子には優しくできるんだからさ」

美咲は必死にスマホを握りしめながら後ずさりした。

その時――



「おい!何やってんだ!」

低い怒声が響き渡った。 
その声の主は悠真だった。彼は駆け寄り、その男の腕を掴むと強引に引き離した。

「ふざけんな!お前何様だ!」

男は抵抗しようとするも、悠真の圧倒的な力には敵わず、その場から逃げ出した。


その後、美咲は涼太にも連絡し、男について警察へ届け出ることになった。
現行犯逮捕とはならなかったものの、その男には厳重注意が与えられ、それ以降姿を見せなくなった。 

美咲は悠真と一緒に公園へ向かい、一息ついた。  

そして、小さな声で呟いた。

「ありがとう……本当に助かった」

悠真は隣で腕組みしながら答える。

「お前、一人で抱え込むなよ。俺も涼太もいるんだから」

その言葉に、美咲の胸には温かなものが広がった。

それでもまだ、自分自身への迷惑感から素直になれず、

「ごめんね」とだけ返した。
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