魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
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 その昔、魔族の伯爵に身売りした娘がいた。
 治安崩壊で焼け出され、盗賊の無法者たちに乱暴されてできた子供を、半狂乱で腹を叩いて自分で堕胎して、その胎児を料理に煮込んで貢ぎものに差し出したのだという。
 とっくに半ば気が狂っていた哀れな娘に、願いは叶えられて、妾にして貰って新しい子供、魔族の伯爵の子供を授かった。それが私(サキ)だ。
 母は憂鬱にふさぎ込んでいることが多かったけれども、私には優しかったし、愛してくれていたのは紛れもない真実だ。魔族の血を引く私の健康と成長を気遣って、よく乳房を針や刃物で傷つけて血を飲ませてくれた。ときどき「あの子」の幽霊に怯えてヒステリックになって泣いていて、そんなときには私が「お兄ちゃんだから心配してくれてるだけだよ」と言って慰めた。
 私にとっては、哀れで愛しい母だった。最後の言葉は「お前は私のように辛い目に合わない、お兄ちゃんみたいに不幸にはならない」と、祈るような安堵で息を引き取った。私は母の同族である人間を全く嫌いにはなれず、下層民の下町をうろついて「狩り」をするのに、吸血やサキュバス行為だけして命まではとらず、いつの間にか親しくもなっていた。
 吸血の印は「自分の獲物」という宣言。他の魔族は手を出すのを遠慮するのがマナーだったし、私は混血ハーフ雑種とはいえ伯爵の娘だった。私にとっては「他の魔族から守ってやっている」満足感で自尊心を満たせるやり方。そのはずだったのに「求婚者」たちがいらぬお節介をして、私の吸血の印をつけた友人たちを殺し始めた。楽しい月夜のおしゃべりと特別なキスをした友人が、翌朝に屋敷で起きれば「贈り物」の料理になって送りつけられてきていた。
 そんなことが二度三度と重なってから、ついに私は親しくなっていた「我が臣民たち」と集団で脱出に踏み切った。クリュエルと知り合っていたことも、決意を固めた一因。もしも彼のような人がいて出会っていれば、母だって殺された友人だってあんなことになっていないだろうから。
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