魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
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本日は、屯田兵村のエルフ印刷所にトラはご出勤で、レトも見学を兼ねてついていく。
小さな作業小屋でエルフの魔法使いたちが「写本」勤しんでいる。都市の図書館で写させてもらったり貸して貰った書物を原本にして、技能魔術(クラフト)で白紙の本に内容を転写するのだ。
「けっこう魔力を使うし、くたくたになる。文字を転写するのは難しくないんだが、本の文字を識別認識して把握する解析が難しいしエネルギー使うんだよ。でも、ペンで書き写す事を思ったら労力は何十分の一で効率も良いから」
トラも作業席に座って、原本一冊と転写先の半ば製本済みの白紙本三冊を並べて開き、順番にページをめくって文章を転写していく。
活版印刷もないわけではなかったけれども、それは一般に普及して需要がある有名な書物や作品か(そういう本は市販されているが、それでも値が張る)、官報や定期的な情報瓦版の類に限られる。活字を並べたり固定の印刷板を保管しておくだけでも、労力や保管の手間がかかるから。
ゆえにたとえ有益で有用な内容であっても、マイナーで発行部数が限られるような書籍は、教会や寺院やエルフや魔術者たちの「技能魔術印刷」に頼らざるを得ない。それは財源にもなっている、悪くない商売ではある。
経済や財政のことは現実的に無視できない。
「トラは、罠(トラップ)の他に、こんな技能魔術(クラフト)もできたんですか」
「どうにか。本当に出来るエルフや聖職者の(魔術印刷の)職人には敵わないけど、手伝いしてお駄賃を貰えるくらいにはなった。ご褒美で作った本で欲しいのも貰えて一石二鳥だし。
ここのリーダーのクリュエルは「付呪」の魔術の名人で独自製法の魔術石器を作って味方の軍に卸売りしてるし、サキは魔法薬を作ってる。農業は基本だけど、それ以外にもこういう家内産業みたいなのがないと、やっぱりこの村の運営するための資金が足りなくなってくるから」
トラが自分の小屋に書物を大量に所蔵しているのには、こんな裏事情があったらしい。もしあれを(町などで)売却すれば悪くない金額にもなりそうだが、それ以前にトラ自身も子供向けの寺子屋や家系教師や、大人向けの知恵の教師(ソフィスト)でもやったら普通に稼げそう(魔術協会と仲が悪いことなどがネックになっているらしいが)。
レトは目をキラキラさせて、トラとエルフの職人に訊ねた。
「ぼくも、ここでお手伝いしていいですか?」
この弟君は、体力バカの趣がある姉よりも、知的好奇心や勉強の能力では上のようだ。
「あ、でもぼくは写本のクラフト(技能魔術)が出来るかどうか怪しいですか」
獣エルフは体力が豊富で、固有の魔術能力も一つ二つはあったりするが、魔術の才能や成長性では乏しい。それが「傭兵の戦士や狩人か、さもなくば盗賊」と揶揄されるゆえんで、他の森林エルフやドワーフたちと違って生業として稼ぎやすい技能的な強みでは劣っている。
すると、エルフの印刷職人さんが言うには。
「魔術で転写するレギュラーの他にも、印刷する紙を形にしたり製本する作業もあるから。五日で銀貨一枚と粒銀一つの軽いめのアルバイトで、普通の農家の人たちも副収入で働いてたりするよ」
「あ、そうなんですか! よろしかったらやってみたいです!」
こうしてレトは、早くもすっかり馴染んでしまったようだ。やがて紙漉きのアルバイトまでも兼任しだしたり、兄貴分になったトラから古典語や地誌学の教授を受けだしたり、他のエルフのアマチュア学者から幾何学や植物学を習いだすのも時間の問題であった。
本日は、屯田兵村のエルフ印刷所にトラはご出勤で、レトも見学を兼ねてついていく。
小さな作業小屋でエルフの魔法使いたちが「写本」勤しんでいる。都市の図書館で写させてもらったり貸して貰った書物を原本にして、技能魔術(クラフト)で白紙の本に内容を転写するのだ。
「けっこう魔力を使うし、くたくたになる。文字を転写するのは難しくないんだが、本の文字を識別認識して把握する解析が難しいしエネルギー使うんだよ。でも、ペンで書き写す事を思ったら労力は何十分の一で効率も良いから」
トラも作業席に座って、原本一冊と転写先の半ば製本済みの白紙本三冊を並べて開き、順番にページをめくって文章を転写していく。
活版印刷もないわけではなかったけれども、それは一般に普及して需要がある有名な書物や作品か(そういう本は市販されているが、それでも値が張る)、官報や定期的な情報瓦版の類に限られる。活字を並べたり固定の印刷板を保管しておくだけでも、労力や保管の手間がかかるから。
ゆえにたとえ有益で有用な内容であっても、マイナーで発行部数が限られるような書籍は、教会や寺院やエルフや魔術者たちの「技能魔術印刷」に頼らざるを得ない。それは財源にもなっている、悪くない商売ではある。
経済や財政のことは現実的に無視できない。
「トラは、罠(トラップ)の他に、こんな技能魔術(クラフト)もできたんですか」
「どうにか。本当に出来るエルフや聖職者の(魔術印刷の)職人には敵わないけど、手伝いしてお駄賃を貰えるくらいにはなった。ご褒美で作った本で欲しいのも貰えて一石二鳥だし。
ここのリーダーのクリュエルは「付呪」の魔術の名人で独自製法の魔術石器を作って味方の軍に卸売りしてるし、サキは魔法薬を作ってる。農業は基本だけど、それ以外にもこういう家内産業みたいなのがないと、やっぱりこの村の運営するための資金が足りなくなってくるから」
トラが自分の小屋に書物を大量に所蔵しているのには、こんな裏事情があったらしい。もしあれを(町などで)売却すれば悪くない金額にもなりそうだが、それ以前にトラ自身も子供向けの寺子屋や家系教師や、大人向けの知恵の教師(ソフィスト)でもやったら普通に稼げそう(魔術協会と仲が悪いことなどがネックになっているらしいが)。
レトは目をキラキラさせて、トラとエルフの職人に訊ねた。
「ぼくも、ここでお手伝いしていいですか?」
この弟君は、体力バカの趣がある姉よりも、知的好奇心や勉強の能力では上のようだ。
「あ、でもぼくは写本のクラフト(技能魔術)が出来るかどうか怪しいですか」
獣エルフは体力が豊富で、固有の魔術能力も一つ二つはあったりするが、魔術の才能や成長性では乏しい。それが「傭兵の戦士や狩人か、さもなくば盗賊」と揶揄されるゆえんで、他の森林エルフやドワーフたちと違って生業として稼ぎやすい技能的な強みでは劣っている。
すると、エルフの印刷職人さんが言うには。
「魔術で転写するレギュラーの他にも、印刷する紙を形にしたり製本する作業もあるから。五日で銀貨一枚と粒銀一つの軽いめのアルバイトで、普通の農家の人たちも副収入で働いてたりするよ」
「あ、そうなんですか! よろしかったらやってみたいです!」
こうしてレトは、早くもすっかり馴染んでしまったようだ。やがて紙漉きのアルバイトまでも兼任しだしたり、兄貴分になったトラから古典語や地誌学の教授を受けだしたり、他のエルフのアマチュア学者から幾何学や植物学を習いだすのも時間の問題であった。