魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
4
一方の姉ルパは、農作業のお手伝い。
「べえべえ」
鳥牛(とりうし)、つまりはくちばしと角があるトリケラトプスをあやしつつ、その後ろに縛りつけた大型の鋤で地面を耕している。卵から孵って鳥類に近いらしい「鳥牛」は哺乳類の牛を超えるすさまじいパワーがある。
この生き物は、先史時代に失われた上古・神代の魔術で復活された人間以前の怪獣時代の生物であるらしい。魔族やエルフ・ドワーフなども、鳥牛が再生された時代に、人間から類似の特殊な魔術によって派生したという伝説がある。
「べえべえべえ」
一緒に避難して移住してきたお百姓さんが、先頭でトリケラトプスの顔先に若草を示し、頭を撫でて励ましながら誘導する。ルパは背後で引っ張っている大きな鋤が浮かび上がらずに地面を耕せるように、グッと押さえつけながらついていく係である(狼女の腕力も捨てたもんじゃあない!)。
すでに焼き畑した新しい耕地の四分の一からは、焼け残った木の根なども取り除かれて、新しい希望の畑へと生まれ変わりつつある。
「ルパちゃんのおかげで、作業がはかどるよ」
「いえいえ。狩りとか害獣のときでないと暇ですから、こういう仕事があると助かります」
耕した区間には、おかみさんと家長の老人が冬蒔き小麦を播種している。
午後の昼下がりには、あのサキから入村の歓迎プレゼントに貰ったピンクパタタ(ジャガイモ)を芽で切り分けて切り口に灰を塗りつけ、一区画にみんなで植え込んだ。
5
狩人や戦士が農業しないなんて、固定観念。武士や兵士であっても、町の雇用の警備兵や傭兵稼業の専業でもない限り、出来る範囲で畜産で馬の飼養したり、自分の畑で野菜なんかを育てる。害獣処理や防衛のために村にいる狩人や戦士にしたところで、狩りに出たり戦うとき以外だったら暇つぶしと稼ぎの足しにするのに別の手頃な仕事を副業でするに決まっている。
女だって例外ではない。たとえ小領主や田舎のお城の貴婦人ですら、家族や配下の食事と裁縫の世話や指揮したり領地運営や家内産業を案配する「家政」に勤しむのが普通(だから「妻」である女主人の良し悪しと賢愚は夫と一家・一族の明暗を分ける)。ふんぞり返って遊び暮らしている奥様方なんてのは、よほどの大貴族や大商人の妻や娘でなければあり得ない(それですら政治や文化事業したり、商売経営の手伝いと采配で懸命になっている)。
おそらく本気で全くといってよいほど生産的な活動をしていないのは、酒場の酌婦や夜の街の売春婦とか金持ちに囲われた妾や愛人くらいだろう(食堂や酒場のおかみさんなら料理・接客といかがわしい稼ぎの半々くらい?、一概に言えない)。だから同性の女たちからはそういう女たちは忌み嫌われる。だって真面目に働いて、男や子供を世話したり助けている自分たちを差し置いて、見かけの色気だけで恥も外聞もなくあぶく銭して男たちに媚びて儲けている不逞の輩だから、恨んだ不快に思って当然。つまりは「女の風上にもおけない」という理屈になるのも必然だろう。
(あーしは、女房としちゃー悪くない有望株のつもりだけどなー)
額の汗を拭いながらルパは思う。優秀な狩人で副業の働きもするし(害獣対策にもなるから、近隣のお百姓さんからは喜ばれる存在)、料理や裁縫も飛び抜けて上手くはないなりにできる。無為徒食で男に媚びるしか能がない女とは違うプライドもある。
いつだったか町に行ったとき、あの手の着飾った「遊び女」たちから「薄汚れた田舎の犬女」などとバカにされた記憶が甦り、にわかに腹が立つ。肌が日焼けたり手足がごついのは狩りや農作業の手伝いで役に立つ女だからだ。あいつらは見た目だけの愛玩動物で機嫌とったり媚びて欺すことしか考えていないのに(それだけに全力なだけにたちが悪い)、男たちはしばしばあんな連中のことを「美しい」とか褒めそやす。実に腹立たしい。
まだサキみたいに有能で良い人だったら、多情だったとしてもご愛嬌でまだ許せなくはないけれど。他人の男を本気で奪うというよりは、本人がシェアされている感じであまり実害もない(魔族は妊娠しにくいしありふれた病気にもならない)。特別な立場もあるために(グループでは「女領主」と見做されて別格)、愛人たちの妻や恋人の女たちとも仲良くやっているらしいが、もしトラがサキといちゃついたらあーしはたぶん嫉妬する。
(トラは、あたしを選ぶよね? もう捨て身で寝込みでもこっちから襲ってやろっかな?)
あたしにとっては一世一代なのだから。
少し思い詰めていたら、夕食時に「じっと睨んで怖い」などと言われてしまった。神経に見つめているだけなのにずいぶんな言われよう。
一方の姉ルパは、農作業のお手伝い。
「べえべえ」
鳥牛(とりうし)、つまりはくちばしと角があるトリケラトプスをあやしつつ、その後ろに縛りつけた大型の鋤で地面を耕している。卵から孵って鳥類に近いらしい「鳥牛」は哺乳類の牛を超えるすさまじいパワーがある。
この生き物は、先史時代に失われた上古・神代の魔術で復活された人間以前の怪獣時代の生物であるらしい。魔族やエルフ・ドワーフなども、鳥牛が再生された時代に、人間から類似の特殊な魔術によって派生したという伝説がある。
「べえべえべえ」
一緒に避難して移住してきたお百姓さんが、先頭でトリケラトプスの顔先に若草を示し、頭を撫でて励ましながら誘導する。ルパは背後で引っ張っている大きな鋤が浮かび上がらずに地面を耕せるように、グッと押さえつけながらついていく係である(狼女の腕力も捨てたもんじゃあない!)。
すでに焼き畑した新しい耕地の四分の一からは、焼け残った木の根なども取り除かれて、新しい希望の畑へと生まれ変わりつつある。
「ルパちゃんのおかげで、作業がはかどるよ」
「いえいえ。狩りとか害獣のときでないと暇ですから、こういう仕事があると助かります」
耕した区間には、おかみさんと家長の老人が冬蒔き小麦を播種している。
午後の昼下がりには、あのサキから入村の歓迎プレゼントに貰ったピンクパタタ(ジャガイモ)を芽で切り分けて切り口に灰を塗りつけ、一区画にみんなで植え込んだ。
5
狩人や戦士が農業しないなんて、固定観念。武士や兵士であっても、町の雇用の警備兵や傭兵稼業の専業でもない限り、出来る範囲で畜産で馬の飼養したり、自分の畑で野菜なんかを育てる。害獣処理や防衛のために村にいる狩人や戦士にしたところで、狩りに出たり戦うとき以外だったら暇つぶしと稼ぎの足しにするのに別の手頃な仕事を副業でするに決まっている。
女だって例外ではない。たとえ小領主や田舎のお城の貴婦人ですら、家族や配下の食事と裁縫の世話や指揮したり領地運営や家内産業を案配する「家政」に勤しむのが普通(だから「妻」である女主人の良し悪しと賢愚は夫と一家・一族の明暗を分ける)。ふんぞり返って遊び暮らしている奥様方なんてのは、よほどの大貴族や大商人の妻や娘でなければあり得ない(それですら政治や文化事業したり、商売経営の手伝いと采配で懸命になっている)。
おそらく本気で全くといってよいほど生産的な活動をしていないのは、酒場の酌婦や夜の街の売春婦とか金持ちに囲われた妾や愛人くらいだろう(食堂や酒場のおかみさんなら料理・接客といかがわしい稼ぎの半々くらい?、一概に言えない)。だから同性の女たちからはそういう女たちは忌み嫌われる。だって真面目に働いて、男や子供を世話したり助けている自分たちを差し置いて、見かけの色気だけで恥も外聞もなくあぶく銭して男たちに媚びて儲けている不逞の輩だから、恨んだ不快に思って当然。つまりは「女の風上にもおけない」という理屈になるのも必然だろう。
(あーしは、女房としちゃー悪くない有望株のつもりだけどなー)
額の汗を拭いながらルパは思う。優秀な狩人で副業の働きもするし(害獣対策にもなるから、近隣のお百姓さんからは喜ばれる存在)、料理や裁縫も飛び抜けて上手くはないなりにできる。無為徒食で男に媚びるしか能がない女とは違うプライドもある。
いつだったか町に行ったとき、あの手の着飾った「遊び女」たちから「薄汚れた田舎の犬女」などとバカにされた記憶が甦り、にわかに腹が立つ。肌が日焼けたり手足がごついのは狩りや農作業の手伝いで役に立つ女だからだ。あいつらは見た目だけの愛玩動物で機嫌とったり媚びて欺すことしか考えていないのに(それだけに全力なだけにたちが悪い)、男たちはしばしばあんな連中のことを「美しい」とか褒めそやす。実に腹立たしい。
まだサキみたいに有能で良い人だったら、多情だったとしてもご愛嬌でまだ許せなくはないけれど。他人の男を本気で奪うというよりは、本人がシェアされている感じであまり実害もない(魔族は妊娠しにくいしありふれた病気にもならない)。特別な立場もあるために(グループでは「女領主」と見做されて別格)、愛人たちの妻や恋人の女たちとも仲良くやっているらしいが、もしトラがサキといちゃついたらあーしはたぶん嫉妬する。
(トラは、あたしを選ぶよね? もう捨て身で寝込みでもこっちから襲ってやろっかな?)
あたしにとっては一世一代なのだから。
少し思い詰めていたら、夕食時に「じっと睨んで怖い」などと言われてしまった。神経に見つめているだけなのにずいぶんな言われよう。