魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
3
 戻ってきたトラは雰囲気が違っていた。

「出てくる。用事ができた」

 そんなことを言いながら、上着を羽織って、剣をぶら下げて鞄に必要なものを追加して詰める。最後にトラバサミの鉄仮面に手を伸ばす。
 あーしは、驚いてつい声を高くした。

「トラ、戦いに行くの? あたしもついて」

「黙ってろ、うっとおしい」

 冷淡なトーンの声でつっけんどんに言われて、体が硬直してしまう。トラはこちらを見ようとすらしていない。

「レト。お前にこのコテージの鍵を預けておくから、留守中の管理は任せる。本は好きに読んでいい。あの印刷所のエルフに色々教えて貰ってもいい。あいつらの仲間には弓や短剣の名手もいる」

 それだけ言い置いて、さっさと出ていこうとする。あたしには一言もなし?
 呼び止めようとしたら、レトが服の裾を引っ張って気をとられる。その束の間に、出入り口のドアが閉まる。追いかけようとしたあたしをレトが腕を出して引き止めた。首を左右に振って、やめておけと身ぶりした。まだほんの少年ながらに直感で感じ取ったのだろうか。

「邪魔して気を散らさない方が良いと思う。コンディションが乱れたらかえって危険だろうし」

「それって、トラは危ない戦いに行ったってこと?」

 あたしはあんまりな急展開で呆然となる。
 そして冷たくされて胸が痛いし、トラのことが心配で不安になる。

「トラ、生きて戻ってくるよね?」

 いつだったか、伯父が魔族との戦いで殺されたときのことが脳裏をよぎって、お腹が空白になるような心もとなさを覚える。不安が急に募ってきて目に涙が浮かんできてしまう。
 レトは「たぶん」と呟いて黙り込んだ。
 その晩はあんまりよく寝られず、うとうとしながら酔っぱらったみたいに気持ちが悪かった。


4
 魔術の高速移動でホバリングすれば、馬で走るくらいの速さは出せる。睡眠不足なども克服することはできる。
 今回の作戦はタイミングが重要だから急ぐべきだった。
 町に、魔族の騎士たちがお忍びで来ている情報が入ったという。人間側の親魔族派閥のギャングたちと連絡をとるためだ。そいつらを襲撃して、これまでの隠密掃討作戦の仕上げとする。
 同じ町に、反魔族のレジスタンスに好意的なジェス教会のマルクート師が来ている(ご本人がクリュエルに知らせてくれたのだそうだ)。ジェス教会は独自の魔術体系を持っていて、政治的にも発言権がある。その立ち会いの下で「クラス6への昇格申請」しようという手はず。
 これまでに魔族の男爵を倒して、フランベルク剣を強奪している。加えて魔族の騎士たちを二三人倒して昇格申請すれば、マルクート師が見ている手前に認めざるを得ないだろう。

(純粋な悪意や殺意って、案外に美しいのかな)

 ホバリングで高速移動しながら、ほんの少しだけ剣を抜いて、ギザギザの銀色の炎みたいな刀身を一瞥する。真っ暗な力と衝動が胸の奥でみなぎってくるようだった。
< 23 / 75 >

この作品をシェア

pagetop