魔術罠師と猛犬娘/~と犬魔法ete
獣エルフの犬鳴ルパ、魔術罠師トラに出会う(2)
1
「いにゅ(犬)め」
あのトラバサミ仮面の「魔術罠師」トラは、あーしのヒゲを指先でピコピコといじくってくる。愛想笑いしつつも前脚で払いのける。
(こそばゆいっての!)
「いっ、にゅ!」
だが性懲りもなく、彼は笑顔でまたやる。しかも今度は両手でダブルだからたまらない。戯れるのはいいとしても、よりによって繊細なヒゲの感覚で遊ばないで欲しい。
あーしはもう一回前脚で顔を洗う仕草に払いのけ、「うぉん」と訴え吠えて抗議した。
(うぉいっ! やめや! くすぐったい!)
真摯な目で訴えると、今度は素直に頭を撫でてくる。それならばよろしい。あーしは目を細め、耳を寝かせて愛撫を受け入れた。従順な態度で敵意がなく味方と思っている意思を示す。
まだ少し警戒して犬・狼の姿のままで様子見と観察しながらも、この男のことは嫌いでない。どうやらまだあーしを「大きな犬」と思っているようで、首のネックレス(飾り首輪に見える)を見て、他の救出した女や村の男たちに「飼い主を知らないのか」などと訊ねてもいた。
面白いのでしばらくこのまま。
(あの子ら、大丈夫だといいんだけど)
あの虜囚の女たちは、トラに同行していた村の生き残りの男たちと一緒に、一足先に彼らがやって来た安全なルートと方向で逃げた。村人の男たちはこの辺りの土地事情に詳しいので道案内と、救出した女子供と身元確認して味方とわかるようにするためについてきたらしかった。
話していたのを傍で聞いていたところでは、トラの仲間の反魔族レジスタンスの集落や軍の戦士からも腕の立つ護衛が来ていて、避難民の護衛している彼らと合流して落ち延びる手はずだとか。
トラはしばらく警戒としんがりを守る意味もあって、出発を遅らせて盗賊キャンプの近場で待っている。ひょっとしたら、別行動していた悪党仲間が戻ってきたりやってくるかもしれない。生かしておくと他のグループに知らされて、追っ手がかかったり報復を狙うかもしれないから、念のためにしばらく待ち受けて「できるだけ片付けておきたい」らしい。
一連の会話の中で出ていたクリュエルという名前には聞き覚えがあった。反魔族派の有名なリーダー格の一人で、「聖剣詐欺村」の事件で親魔族ギャングの村集落を逆に皆殺しにし、聖剣を偽って餌に飾られていた魔族の名剣を強奪した逸話が知られる(魔族に敵対的な冒険者・勇者候補を欺しておびき寄せて始末していた悪徳犯罪村)。彼は森林エルフと付き合いがある関係で、そちらから供与されたエルフ製の毛皮鎧を愛用している出で立ちから「原人騎士」とも呼ばれている。
まさかとは思うけれど、このトラが悪人で村人たちを欺して、捕虜を横取りしようとしている可能性も考えてみる(あたしだって全くの阿呆や間抜けではないつもりですけど?)。その恐れは低いだろう。無法者同士での諍いや騙し合いは頻繁にあるにせよ、魔族傘下である山賊集団を襲撃して大量殺戮するというのは、たとえ成功しても魔族や親魔族ギャングから恨みを買うハイリスクな行為だから。本人が自己申告していたように、反魔族レジスタンスの一員である信憑性が高いと見て良いはず。
そして、こうしてしばし観察してもいる。
(役得なのか、アクシデントなのか)
そしたら不慮の事態というのは何事にもつきものなのだが、近くの川で「洗われて」しまった。盗賊キャンプ討伐の闘争で残党狩りのお手伝いしたから、泥だらけで返り血も浴びて汚れてはいたんだけどさ。
いきなり服を脱ぎだし、意図を理解したときには水をかけて、石鹸まで塗られて。全身を手で揉み洗われ、後脚の指の間まで揉み洗いされ、「乾くまで離れてろ、犬臭い」とまで言われた。犬や動物を洗ったら乾くまで臭うのは当たり前なのに、強引に洗っておいてそんなことを言う?
しかもトラは自分も水浴しながらのついでなものだから、犬が相手と思って素っ裸。目の前で男のあれをブラブラさせて目のやり場にいささか困惑してしまった。このまま犯されるかとあーしが一瞬思ったのも知らず(狼に変身しているのを一瞬だけ忘れるくらい動転していた)、トラは上機嫌で洗い倒してきやがった。
(レトよりおっきい。やばかった)
まだ少年である弟(犬鳴レトリバリクス)の現物と思い比べて、大人の男だと実感する。なんだか正体を明かすのが気まずく恥ずかしくなってきて、このまま逃げようかと迷ってしまうほどだ。
「いにゅ(犬)め」
あのトラバサミ仮面の「魔術罠師」トラは、あーしのヒゲを指先でピコピコといじくってくる。愛想笑いしつつも前脚で払いのける。
(こそばゆいっての!)
「いっ、にゅ!」
だが性懲りもなく、彼は笑顔でまたやる。しかも今度は両手でダブルだからたまらない。戯れるのはいいとしても、よりによって繊細なヒゲの感覚で遊ばないで欲しい。
あーしはもう一回前脚で顔を洗う仕草に払いのけ、「うぉん」と訴え吠えて抗議した。
(うぉいっ! やめや! くすぐったい!)
真摯な目で訴えると、今度は素直に頭を撫でてくる。それならばよろしい。あーしは目を細め、耳を寝かせて愛撫を受け入れた。従順な態度で敵意がなく味方と思っている意思を示す。
まだ少し警戒して犬・狼の姿のままで様子見と観察しながらも、この男のことは嫌いでない。どうやらまだあーしを「大きな犬」と思っているようで、首のネックレス(飾り首輪に見える)を見て、他の救出した女や村の男たちに「飼い主を知らないのか」などと訊ねてもいた。
面白いのでしばらくこのまま。
(あの子ら、大丈夫だといいんだけど)
あの虜囚の女たちは、トラに同行していた村の生き残りの男たちと一緒に、一足先に彼らがやって来た安全なルートと方向で逃げた。村人の男たちはこの辺りの土地事情に詳しいので道案内と、救出した女子供と身元確認して味方とわかるようにするためについてきたらしかった。
話していたのを傍で聞いていたところでは、トラの仲間の反魔族レジスタンスの集落や軍の戦士からも腕の立つ護衛が来ていて、避難民の護衛している彼らと合流して落ち延びる手はずだとか。
トラはしばらく警戒としんがりを守る意味もあって、出発を遅らせて盗賊キャンプの近場で待っている。ひょっとしたら、別行動していた悪党仲間が戻ってきたりやってくるかもしれない。生かしておくと他のグループに知らされて、追っ手がかかったり報復を狙うかもしれないから、念のためにしばらく待ち受けて「できるだけ片付けておきたい」らしい。
一連の会話の中で出ていたクリュエルという名前には聞き覚えがあった。反魔族派の有名なリーダー格の一人で、「聖剣詐欺村」の事件で親魔族ギャングの村集落を逆に皆殺しにし、聖剣を偽って餌に飾られていた魔族の名剣を強奪した逸話が知られる(魔族に敵対的な冒険者・勇者候補を欺しておびき寄せて始末していた悪徳犯罪村)。彼は森林エルフと付き合いがある関係で、そちらから供与されたエルフ製の毛皮鎧を愛用している出で立ちから「原人騎士」とも呼ばれている。
まさかとは思うけれど、このトラが悪人で村人たちを欺して、捕虜を横取りしようとしている可能性も考えてみる(あたしだって全くの阿呆や間抜けではないつもりですけど?)。その恐れは低いだろう。無法者同士での諍いや騙し合いは頻繁にあるにせよ、魔族傘下である山賊集団を襲撃して大量殺戮するというのは、たとえ成功しても魔族や親魔族ギャングから恨みを買うハイリスクな行為だから。本人が自己申告していたように、反魔族レジスタンスの一員である信憑性が高いと見て良いはず。
そして、こうしてしばし観察してもいる。
(役得なのか、アクシデントなのか)
そしたら不慮の事態というのは何事にもつきものなのだが、近くの川で「洗われて」しまった。盗賊キャンプ討伐の闘争で残党狩りのお手伝いしたから、泥だらけで返り血も浴びて汚れてはいたんだけどさ。
いきなり服を脱ぎだし、意図を理解したときには水をかけて、石鹸まで塗られて。全身を手で揉み洗われ、後脚の指の間まで揉み洗いされ、「乾くまで離れてろ、犬臭い」とまで言われた。犬や動物を洗ったら乾くまで臭うのは当たり前なのに、強引に洗っておいてそんなことを言う?
しかもトラは自分も水浴しながらのついでなものだから、犬が相手と思って素っ裸。目の前で男のあれをブラブラさせて目のやり場にいささか困惑してしまった。このまま犯されるかとあーしが一瞬思ったのも知らず(狼に変身しているのを一瞬だけ忘れるくらい動転していた)、トラは上機嫌で洗い倒してきやがった。
(レトよりおっきい。やばかった)
まだ少年である弟(犬鳴レトリバリクス)の現物と思い比べて、大人の男だと実感する。なんだか正体を明かすのが気まずく恥ずかしくなってきて、このまま逃げようかと迷ってしまうほどだ。