悪役令嬢を期待されたので完璧にやり遂げます!
二人の反応を確認し終えたマリアンヌは、校舎の外壁を囲んでいるベランダをバビュンと走って、今の時間は使用されていない音楽室の窓から室内へと入った。
鍵は事前に開けておいたし、ベランダは緊急時しか使われないので誰かに見られる恐れはなかった。
貴族が多く通っている学園だからか、落下事故を防ぐ為にベランダは普段出入り禁止になっているのだ。

乱れた髪をさっと整えて音楽室から堂々と出て行き、廊下をしれっと歩き始めると、同じクラスのベリックに声をかけられた。

「マリアンヌ嬢、お一人ですか? よかったら実習室までご一緒しませんか?」
「まあ、ベリック様。喜んで」

ベリック様ったらいいところに。
ちょうどアリバイを作ろうと思っていたところだから助かったわ。

「お一人とは珍しいですね」
「お恥ずかしながら、音楽室に忘れ物をしていたことに気が付きましたの。実習室へ行く前に取りに寄ってきたところですわ」
「それはマリアンヌ嬢らしくもないですね。いや、いつも完璧なあなたのそういう小さな失敗は、僕にはとても可愛らしく感じられますが」
「ベリック様ったら……」

ベリックは侯爵家の次男坊で、おっとりとした好青年である。
優秀なマリアンヌとトップの成績を争いながらも、真面目な人柄と端正な顔立ちで女子の人気も高い。

お友達には先に実習室へ行ってもらっているし、このまま廊下を進めばさっきの空き教室のそばを通るはず。
二人はあの後どうしたかしら?
私があの場にいた証拠なんてないし、普通は聞き間違いだと思って立ち去っているわよね。
それにしてもベリック様は褒め上手で、さすが侯爵家のご令息よね。

達成感からかつい頬が緩むマリアンヌを、ベリックが頬を染めながら見つめていた。
彼にはマリアンヌが照れてはにかんでいるように見えており、いつも理性的な彼女の意外な一面に目が離せなくなっていたのである。

そんな時。
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