姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 ここは居心地がよくて、彼と過ごす時間も楽しかった。だからこそ余計に失うことが恐ろしくなってしまう。
「本当の私にガッカリしちゃわないかな……?」
 ぽつりと不安を声にしたら、いつかのように壁掛けのフラワーベースからドラセナがシュルリと伸びてきて、頭をさすさすしてくれる。
 なんとなく「そんなことないよ」と励ましてくれているような気がした。優しく頭をさすられているうちに、いつの間にか夢の世界へと旅立っていた。

 翌日の午後。
 ──コンコン。
「はーい、どうぞ」
 扉がノックされた。てっきり侍女だと思っていた私は、文机に向かったままなんの気なく返事をする。
「フィアンナ」
「えっ!?」
 聞こえてきた予想外の声に読んでいた本から顔を上げ、ガバッと振り返る。
「ジンガルド……!」
 引き開けた扉の前で佇むジンガルドを認め、慌てて席を立って歩み寄る。
 昨日の今日で、いったいどうしたのか。
「どうぞ。中に入って」
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