姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 嘆息しつつ、ふいに視線をフィアンナの後方に移す。彼女の斜め後ろに立つエリックは顔面蒼白だ。
「まさか実直なる騎士にまで裏切られようとは、思ってもみなかったがな」
 つい癖ってしまったが、傷ひとつ負わせることも許されぬ尊い身のフィアンナを連れ、それなりの強行軍を追い、騎馬で駆け通してきたこの男をどうして責められよう。
「私がエリックさんを脅して、連れてきてもらったのよ。言葉通り皇妃の権力を笠に着ての強制で、断ることは難しかったと思うわ。なので、責めは実直なる護衛騎士ではなく、この私に」
 冴え冴えと口にするフィアンナに、苦笑が浮かぶ。
 ……俺の妻はなんとも頼もしく、そして逞しいな。
「いいや。こやつには、どうしても不問にしておけぬ罪がある」
 フィアンナの眉間に小さく皺が寄り、纏う空気がピリリとする。エリックの顔色は白を通り越し、青くなっていた。
 俺は構わずに口を開く。
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