姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 柔らかな感触と温もりをひとしきり堪能してから、僅かに空間を作って手のひらで彼女の頬を包み込んだ。『いつか、俺にこの唇を許してくれ』と乞うたのは、もう五カ月以上前のお披露目の場だった。
「俺も君を、誰よりも愛している」
 紫水晶みたいな瞳に真っ直ぐに告げ、そっと顔を寄せる。
 俺の意図を察したのだろう。彼女の綺麗な目がこぼれ落ちそうなくらい見開かれ、やがて淡い金色の睫毛の後ろに隠された。
 彼女の愛を得て、その『いつか』が叶おうとしている。喜びに震えそうになるのを堪え、頬にあてた手で顔を少し上向かせ、さくらんぼみたいに色づく唇を啄む。
 初めて触れた彼女の唇は柔らかで、そして蕩けるように甘い。いつまででも重ねていたかったが彼女の体がピクンと跳ねるのを感じ、名残惜しく唇を離す。
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