姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
「オズモルト、俺はもう自分の中で折り合いをつけている。いつまでそうして腑抜けているつもりだ。お前もサッサと前を向かんか」
 公式文書の『婚姻を以って、条約違反は二度と蒸し返されない』この一文を覆すなら、それこそ戦争の覚悟が必要になる。皇帝として、その選択は選べない。
 苦すぎる教訓。高すぎる勉強代。
 しかし、これが現実だ。
 この十日間で燃え盛るような怒りは一周回り、諦観へと変わっていた。
 頭の弱い子猿は離宮で飼い殺し、俺はこれまで通り過ごせばいいのだ。世継ぎの件は、一旦保留だ。
「少し出てくる」
 マントを掴み、政務机を立つ。
「どちらへ?」
 外の空気でも吸わねば、息苦しくてかなわない。
 オズモルトだけではない。帝宮の従事者らが消沈しきり、まるで通夜のようになっていた。
 俺は民の生活をこの目で見るため、定期的に身分を隠して帝都に下りている。今日のような鬱屈とした日には、うってつけだ。
「いつもの〝視察〟だ」
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