姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 離宮の立地は厩に近い。二階の窓から何度か愛馬で出かけていくジンガルドの姿を見かけたから、帝宮を不在にしているわけでも、病に伏せっているというわけでもなさそうだ。
 窓越しに初めて黒髪金目のその顔を見た時。どことなく懐かしいような、胸の奥の深いところが疼くような、不可思議な感覚を覚えた。
 もしかして彼が日本人に馴染み深い黒髪だから郷愁を刺激されたのかとも思ったが、タイラント帝国で暗褐色の髪は珍しくない。侍女の幾人かと護衛の騎士も黒髪だったと気づき、首を捻った。
 妙な既知感を抱えながら、私はジンガルドを観察した。
 相手は、野獣皇帝と呼ばれる男だ。嫁入りに際し、どんな粗野な風貌なのかと内心少し身構えていた。けれど実物の皇帝ジンガルドは、帝国の男性らしいガッシリと逞しい体付きで上背もあったが、顔の造作は粗削りながら精悍で整っていた。追従する部下たちへの対応もけっして乱暴ではなく、むしろ丁寧。
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