姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
「承知いたしました」
 特に名乗りは交わしていないが、初日から私の護衛についてくれているのだから覚えてしまった。これは日本で社会人をしていた時代の名残のようなもの。直接関わらない他部署の人の名前でも知っておくと仕事がやりやすく感じたのだ。
「よろしくね」
 なんにせよ、これで時間稼ぎは完璧だ。
 パタンと扉が閉まると真っ直ぐにクローゼットに向かい、用意されていた中で一番シンプルなワンピースに着替える。その上にフード付きのケープを羽織り、空のバスケットを持って天地に広がる窓を目指す。窓を開けた向こうはテラスになっていて、スロープでそのまま前庭に出られるようになっているのだ。
 庭に下りた私は薔薇が植えられた一角に向かい、人目がないのを確認してから赤色の薔薇の蕾をちょんとつつく。
「綺麗に咲いてね」
 直後、リンッという音と共に光の粒子が指先からフワッと弾ける。見る間に蕾がふわりと綻んでゆき、花開く。
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