姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 少し考えて五輪ほど咲かせて摘み取り、バスケットに入れた。それを手に、抜け穴を目指す。
 離宮の前庭はぐるりと生垣で囲われているが、実は一カ所ぽっかり穴が空いたところがある。迷い猫がそこを通り抜けていくのを目撃したのは、離宮に来た初日のこと。
 穴はそう大きくはないが、興味本位で潜ってみたらギリギリ抜けることができた。
 それ以来、私は毎日のようにここを通って離宮を抜け出し、帝宮の敷地内を散策していた。その最中、帝宮の厨房に食品を卸している馬車の御者と仲良くなって、帝都まで乗せてもらうようになったのだ。
「おじちゃーん! 今日もお願いしていいかしら?」
 午前二時。私が厨房裏手に行くと、食品配送の馬車はちょうど荷下ろしを終え、裏門の方へ回ろうとしているところだった。
「お、嬢ちゃん! なに、どうせ帝都に戻るついでなんだ。かまわねえよ、乗んな!」
 私が声をかければ御者のおじちゃんが快く荷台を示してくれた。
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