姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
「ありがとう! これ、よかったら彼女さんにどうぞ」
「お! 幸運を呼ぶ赤い薔薇じゃねえか! こりゃあ喜ぶぜ、ありがとうよ!」
 薔薇を一輪手渡してから、荷台に乗った。
 十五分ほど走り、貴族街を抜けた先にある庶民的な市場の前で、お礼を言って降ろしてもらう。
 帝都の街に出るのはこれが三回目。前回、前々回歩いたのと同じ場所なので、だいたい勝手は分かっている。
 市場の入口の前、少し開けた場所に立つと、コホンとひとつ咳ばらいして声をあげる。
「幸運を呼ぶ赤い薔薇はいかがですか? 一輪五百エンサです」
 初回の散策で露店で買い物したい欲が出て、小遣い目当てに薔薇を売り始めたのは前回から。売り込みの声を出すこの瞬間は、顔から火が出るほど恥ずかしい。
 眉唾感ムンムンのネーミングも多分に影響しているのだが、そこはおじちゃんへの義理立てもあるのでやむなしだ。
「おや。綺麗な色だね、一輪もらおうか」
「ありがとうございます!」
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