姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?

　クラリッサとマリッサにとって、真冬の人工池に私を突き落としたのは、ささいな嫌がらせだっただろう。けれど、あの時覚醒し記憶が戻らなければ、私は確実にあのまま溺死していた。
　込み上げてくる怒りを隠し、私はふたりに向かってにっこりと微笑む。いかにも頭が弱そうなふりをして。
「あらやだ。そんなドブネズミのような恰好じゃ、気づきようがないわよ」
　ドレスと呼ぶにはいささか簡素だが、清潔に保っていた私の服。それらを洗っても落ちない油染みで、茶色くまだら模様にしてくれたのはこのふたりだった。
「もう。さっきから猿だのネズミだの、クラリッサは酷いんだから。ねぇ、フィアンナ？」
　なにを言われても、ただへらへらと笑い返す。
　そんな私をマリッサが馬上から意地の悪い顔で見下ろして続ける。
「今日はね、あなたにお土産があるの。トーマス、出してちょうだい」