姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 頭の中が、真っ赤な怒りで染まる。けれど、私は経験で知っていた。反抗したり、怯えたりすれば、クラリッサとマリッサはその反応を面白がって一層いたぶろうとする悪癖持ちだ。なにをされても微笑んで、ふたりの興が冷めるのを待つのが得策なのだと。
 息を吐くのと一緒に、胸に燻る憤怒を逃がす。
「あははははっ!」
 なにをぶつけられてもへらへらしている私を見て、姉たちのみならず近衛騎士までもが嘲笑う。彼らは皆スラリとした長身だけれど騎士としては華奢で、実践ではてんで役に立たないだろう。しかし、容色が美しく見栄えのする騎士たちは、姉たちのお気に入りだった。
 再び飛んできた林檎がゴンッと額に当たり、ツーッと生温い液体がこめかみを伝って地面に染み込んでいくのを感じた。
 大物はそれが最後だったようで、その後はクッキーやチョコレートといった小さな菓子がぶつけられた。
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