すべてはあの花のために④
「ちょっと! アキの奴、一体何してくれちゃってるわけ?!」
「信人さんウエットティッシュとかないんですか!? アルコールとか! 殺菌しないと!」
爆弾を落としていったとは露知らず。
王子菌だと思われているとも露知らず。
葵の手を、これでもかと必死になって二人が拭きまくっているとも露知らず。
「いてて……。真っ赤になるまでしなくても……」
擦られた。とにかく擦られた。
「ったく。油断も隙もないんだから」
「葵も! なんでされてるがままなのさ! 抵抗しろよ少しはっ!」
「はいはいー。悪かったねー」
耳を塞いでいても、大声の文句は十分に聞こえた。
「……それにしても翼くん、どういうことなの」
「ええ~? 何がですかあ~?」
「え? シント? ツバサくん?」
さっきまで仲良さげだったのに。どうして火花散らしてるの二人とも。
「なんで日向くんと一緒に住んでないわけ」
「さあ? どうしてですかねー」
「それでも兄貴だろ。弟放っておいてそんな恰好までして? ……君、一体何してるの」
「それは信人さんにそのままそっくりお返ししますけど? ……アキが一番苦しんでる時に隠れてたのはどこの誰ですか」
「それはもう解決したんだからいいだろ」
「だったら人の家庭事情にとやかく言わないでもらえますか。はっきり言って迷惑です」
「は? 心配してやったのに何。この間のことまだ引き摺ってるの? あーやだね。ちっさい男はこれだから。あ、オカマだったね。心はちっさいでっかいオカマだ」
「はっ。なんとでも言ったらいいですよ。別にどう思われていようと、アタシには――」
「二人ともやめなさーいっ!」
今まで口を挟まなかった葵の、堪忍袋の緒がとうとうプツン。
「なんでいつの間に喧嘩するほど仲良くなってるんだい! 羨ましいなあっ!」
「「……は?」」
「いいないいな~。二人がそんなに仲良くなってるなんて、わたしは知らなかったよ~」
「え。あ、葵?」
「ちょ、今のどこが仲良いって言うのよ」
シントが運転席から、ツバサが後部座席から身を乗り出してくる。
『あれ? 葵ちゃん、楽しそうにしてるけど、さっきプッツンいかなかったっけ?』
そう思った皆さん、大正解。
「――ッ?!」
「~~ッ?! ってえ……!?」
次の瞬間、二人の頭は、葵が持っていた護身用巨大ハリセンによって見事ぶっ叩かれました。