すべてはあの花のために④

「っ、葵! 何するのさ……! 頭なくなったかと思ったんだけど?!」

「ッ。あー信人さんの変態が遷ったらどうしてくれるのよ」

「はあ? ごめん。どういう意味? 日本語話してくれない?」

「え? そのまんまですけどー」

「いい加減にしなさいよ?」


 夥しいほどの怒りオーラに、二人は瞬時に震え上がった。


「シント! なんでそんなにツバサくんに敵意剥き出しなの!」

「すみません……」

「ツバサくんも! シントは後悔してるんだから、傷口抉っちゃダメ!」

「……ごめん」


 一気に小さくなった二人に、葵はふうと息をつく。


「……シント。ツバサくんが触れて欲しくないのに、なんでそんなこと聞こうとするの」

「――! あっ。……そ、れは……」

「わかってる。でも、急いだって何にもならないんだから。いい?」

「……ッ。わか、った」


 悔しげに俯くシント。それを宥めるように頭を撫でる葵。二人のそんな様子にツバサは眉を顰めるが、振り向いた葵が申し訳なさそうに笑っていて、その理由を問うことはできなかった。


「ごめんねツバサくん。実は前に、ヒナタくんに聞こうとしたことがあるんだけど、なんか話したくなさそうだったから。二人のことは二人が話してくれるまで待とうって決めてるの」

「え。……アンタいつ、あの子と……」


 けれど、それには何も返さなかった。


「……ただもし、困ったことがあったら遠慮なく言って欲しい。きっとわたしが、ツバサくんに手を貸してあげられると思うから」


 ツバサはただ、苦しそうな表情で口を噤んでいた。


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