婚約破棄されたので、契約母になります~子育て中の私は、策士な王子様に翻弄されっぱなしです~
『国王陛下
わたくしのような者が陛下に手紙を書くことは本来許されることではございません。
しかし、どうしてもルイト様についてお願いをいたしたく、筆を執りました。
ルイト様は我が婚約者であるディーター様より、ひどい扱いを受けておりました。
その行為を止めることができなかったのは、わたくしの不徳の致すところでございます。
ならばせめて、ルイト様の母として、彼を育てさせていただけないでしょうか。
我がハインツェ伯爵家で責任をもって、お育てさせていただきます。
どうかご検討の程、よろしくお願い申し上げます。
フローラ』
手紙を読んだヴィルは、国王に尋ねる。
「この手紙を受けて、彼女を母に?」
「ああ。だが、お前がいうように彼女はまだ十七。だから、代理として母となる期間は一年と定めた」
「一年……」
「その間に国が適切なルイトの新しい家族を探す。それまでの代理だ、彼女は」
(そんな、では結局彼女とルイトは離れる運命じゃないか)
国王は筆を止めて、ヴィルのほうを向くとにやりと笑って言う。
「さあ、お前ならどうする。何かしたいのだろ? これを聞いて」
(父上は何もかもお見通しというわけか……ならば……)
ヴィルは紙にさらさらと文章をしたためる。
書き終えると、それを国王の前に差し出して告げる。
「私が監視員として、フローラ嬢の動向をチェックします。その報告書をもって彼女が母として相応しい人物であれば、ルイトの母として永続的に認めるのはいかがですか?」
ヴィルは契約文を記した紙に、国王の署名を求めた。
「それは公平ではない。お前の判断だけでは足りない。一人国家の調査隊を常に監視に置く。その人物が評価したなら、よしとする。相応しくない行為をした場合も即代理母の資格をはく奪する。これ以外認めん」
(この、頑固親父……! でも、それしかないか……)
「かしこまりました。それでは、その調査員が認めたら、フローラを母と認めるということで、いいですね?」
「ああ」
国王は満足気な顔をして、契約文に署名をした。
(さあ、フローラ嬢。君は、自分で未来を掴めるだろうか。しっかり見させてもらうよ)
ヴィルはマントを翻し、執務室を後にした──。