婚約破棄されたので、契約母になります~子育て中の私は、策士な王子様に翻弄されっぱなしです~

第5話 国王陛下と王子様の駆け引き~SIDEヴィル~

 フローラが婚約破棄される数日前、王宮にある国王執務室では国王と第一王子ヴィル・クラインが話をしていた。

「父上、これは?」
「ああ、養子縁組の申請書だな」

 ヴィルはその書類を手に取って、目を通す。

(キルステン公爵家の次男の養子縁組? 代理母にフローラ・ハインツェ?)

 ハインツェ伯爵家といえば、男爵から父親が興した織物事業が成功して父上が伯爵にしたところの家か……フローラといえば、そのご息女。なぜ彼女が?)

「父上、この養子縁組、どういうことなのですか?」
「なにがだ」
「普段であれば、国が保護が必要と判断した場合、貴族間で養子縁組を募るのでは?」
「ああ、そうだな」
「では、なぜ、今回はハインツェ伯爵令嬢が母に? それに彼女はまだ十七のはず。婚約者も確か……」

 そこまで言葉にしてヴィルは気づいた。

(そうだ、ハインツェ伯爵令嬢、フローラ嬢の婚約者は確かキルステン公爵家のディーター。そこでの関係が何か?)

 息子の脳内を理解したように、国王は許可書にさらさらと署名をしながら言う。

「そうだ。キルステン公爵家の長男は、異母弟のルイトに虐待を加えており、そのことに心を痛めたフローラが国に現状を伝えた。そして調査が入ると、キルステン公爵夫妻はルイトの育児放棄……つまり、国で保護してほしいと申請をしてきたのだ」
「なっ! 自らの子どもなのにか?」
「ああ、不貞の子だからという理由で邪魔なのだと」

 身勝手な理由での育児放棄に、ヴィルは不快感をあらわにする。

「そこで、ルイトが国で保護されるのを知ったフローラは、わしにこの手紙をつけて申請書を出した」
「手紙……?」

 ヴィルは国王から手紙を受け取ると、中身を読んでいく。
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