婚約破棄されたので、契約母になります~子育て中の私は、策士な王子様に翻弄されっぱなしです~
「わあ、綺麗……」
そこには白く小さな花が咲いており、それはまるで雪の結晶のようだった。
その花をじっと見ていた時、ふいに耳元で囁かれる。
「見つけた」
「ひゃっ!」
「あぶなっ!」
そのまま後ろに倒れそうになったフローラを誰かが抱き留めた。
ゆっくりとフローラが目を開くと、そこには見目麗しい銀色の長い髪と蒼い瞳がある。
「王子っ!」
「ごめん、びっくりさせすぎた。怪我してない?」
「は、はい……」
そうすると、彼は人差し指をフローラの口元に当て、口をすぼめて言う。
「ヴィル、でしょ?」
「あ……」
そんな仕草で甘い声で注意する。
(う……そんな美麗な顔で見つめられると……)
フローラの心臓の鼓動が速くなる。
彼女の心がどきっとした原因である彼は、優しくも意地悪な顔で言う。
「でも、君はわかりやすいね。隠れる場所が読みやすい」
「え、えっ! ……でも、やっぱりそうなんでしょうか……」
「やっぱり?」
ヴィルが尋ねると、フローラは昔を懐かしむように語り始める。
「侍女のアデリナとよく幼い頃かくれんぼをしてたんですが、いつもすぐに見つかっちゃって……それで……」
フローラは何かを思い出したようにハッとすると、そのまま黙ってしまう。
「フローラ?」
フローラは唇を狂わせて、その場にしゃがみ込んだ。
「顔色が悪い。屋敷に戻ろう」
そう言ったヴィルの腕をフローラの手が強く引き留める。
「すみません、大丈夫です。久々に思い出しただけなので……」
ヴィルはフローラの隣に座ると、彼女が落ち着く様に背中をさする。
「ごめん、嫌だったら殴っていいから。ほっとけなかった」
「いえ、ありがとうございます。……その、ヴィル様は私がルイト様の代理母として願い出た手紙を見たんでしょうか?」
「ああ」
すると、フローラはゆっくりと話し始めた。
「うちにも弟がいるはずだったんです」
「だった……?」
「……十二年前、私は庭でアデリナとかくれんぼをしていたんです。だけど、昔はもっと雑多な庭で大きな池があって。入っちゃだめだって言われてたのに、私、その敷地に入ってしまって……。それで、溺れたんです。その騒ぎで精神的に負荷がかかったお母様は弟を流産してしまって。私のせいで、お母様から大切な子を奪ってしまった……」
「だから、ルイトを育てたいと言い出したのか?」
「いえ、そうではないと思いたいです。でも、無意識に私のエゴが入っているのかもしれません……」
フローラは俯いてか弱い声で呟く。
「こんな私が、育てていいのかって今になって思ってしまったんです」
すると、ヴィルは立ち上がり、フローラを真っ直ぐに見つめて言う。
「何を甘えたこと言っている」
「え……」
「あれだけ威勢よく育てると宣言して、国王に手紙まで書いて嘆願して、母親になったのに、その程度の覚悟だったのか? 君のルイトを守りたいと思う気持ちはその程度か?」
その言葉にフローラは顔をあげて、目を見開く。
「ルイトは君を一番頼りにしてる。その手を取って、差し伸べたいと願ったのはフローラ、君自身だ。だからこそ、周りの手を借りてでもいい。何も一人で育てるだけが正解じゃない。君は一人じゃない」
「ヴィル様……そうかもしれません。なんだか、私の味方は、頼る場所はたくさんあることを思い出しただけで、心が楽になりました。ルイト様の幸せのため、私が一年で何ができるのか、たくさん考えてみます!」
「ああ」
二人で微笑み合ったその時、温室の外から声がする。
「ヴィルとフローラみつけた!」
ルイトが嬉しそうに二人を指さしてにこにこしている。
どうやら話し込んでしまった間に辛抱がきかなくなり、二人を探し始めたようだった。
「あ~見つかっちゃった~」
「ごめんなさい、ルイト様」
フローラとヴィルは互いに目を合わせて笑った後、三人で手を繋いで庭に戻っていった──。
そこには白く小さな花が咲いており、それはまるで雪の結晶のようだった。
その花をじっと見ていた時、ふいに耳元で囁かれる。
「見つけた」
「ひゃっ!」
「あぶなっ!」
そのまま後ろに倒れそうになったフローラを誰かが抱き留めた。
ゆっくりとフローラが目を開くと、そこには見目麗しい銀色の長い髪と蒼い瞳がある。
「王子っ!」
「ごめん、びっくりさせすぎた。怪我してない?」
「は、はい……」
そうすると、彼は人差し指をフローラの口元に当て、口をすぼめて言う。
「ヴィル、でしょ?」
「あ……」
そんな仕草で甘い声で注意する。
(う……そんな美麗な顔で見つめられると……)
フローラの心臓の鼓動が速くなる。
彼女の心がどきっとした原因である彼は、優しくも意地悪な顔で言う。
「でも、君はわかりやすいね。隠れる場所が読みやすい」
「え、えっ! ……でも、やっぱりそうなんでしょうか……」
「やっぱり?」
ヴィルが尋ねると、フローラは昔を懐かしむように語り始める。
「侍女のアデリナとよく幼い頃かくれんぼをしてたんですが、いつもすぐに見つかっちゃって……それで……」
フローラは何かを思い出したようにハッとすると、そのまま黙ってしまう。
「フローラ?」
フローラは唇を狂わせて、その場にしゃがみ込んだ。
「顔色が悪い。屋敷に戻ろう」
そう言ったヴィルの腕をフローラの手が強く引き留める。
「すみません、大丈夫です。久々に思い出しただけなので……」
ヴィルはフローラの隣に座ると、彼女が落ち着く様に背中をさする。
「ごめん、嫌だったら殴っていいから。ほっとけなかった」
「いえ、ありがとうございます。……その、ヴィル様は私がルイト様の代理母として願い出た手紙を見たんでしょうか?」
「ああ」
すると、フローラはゆっくりと話し始めた。
「うちにも弟がいるはずだったんです」
「だった……?」
「……十二年前、私は庭でアデリナとかくれんぼをしていたんです。だけど、昔はもっと雑多な庭で大きな池があって。入っちゃだめだって言われてたのに、私、その敷地に入ってしまって……。それで、溺れたんです。その騒ぎで精神的に負荷がかかったお母様は弟を流産してしまって。私のせいで、お母様から大切な子を奪ってしまった……」
「だから、ルイトを育てたいと言い出したのか?」
「いえ、そうではないと思いたいです。でも、無意識に私のエゴが入っているのかもしれません……」
フローラは俯いてか弱い声で呟く。
「こんな私が、育てていいのかって今になって思ってしまったんです」
すると、ヴィルは立ち上がり、フローラを真っ直ぐに見つめて言う。
「何を甘えたこと言っている」
「え……」
「あれだけ威勢よく育てると宣言して、国王に手紙まで書いて嘆願して、母親になったのに、その程度の覚悟だったのか? 君のルイトを守りたいと思う気持ちはその程度か?」
その言葉にフローラは顔をあげて、目を見開く。
「ルイトは君を一番頼りにしてる。その手を取って、差し伸べたいと願ったのはフローラ、君自身だ。だからこそ、周りの手を借りてでもいい。何も一人で育てるだけが正解じゃない。君は一人じゃない」
「ヴィル様……そうかもしれません。なんだか、私の味方は、頼る場所はたくさんあることを思い出しただけで、心が楽になりました。ルイト様の幸せのため、私が一年で何ができるのか、たくさん考えてみます!」
「ああ」
二人で微笑み合ったその時、温室の外から声がする。
「ヴィルとフローラみつけた!」
ルイトが嬉しそうに二人を指さしてにこにこしている。
どうやら話し込んでしまった間に辛抱がきかなくなり、二人を探し始めたようだった。
「あ~見つかっちゃった~」
「ごめんなさい、ルイト様」
フローラとヴィルは互いに目を合わせて笑った後、三人で手を繋いで庭に戻っていった──。