婚約破棄されたので、契約母になります～子育て中の私は、策士な王子様に翻弄されっぱなしです～

「ふふ、少しずつ慣れてもらいましょうかね！　あ、子どもでも食べられる薄味で柔らかい食事を用意しました。お嬢様の分の大人用モーニングもありますが、ご一緒に召し上がりますか？」
「ええ、あっ！　でも、まずルイト様にご飯を召し上がってもらってから、私は食べます！」
「わかりました。それでは、今食事をお持ちしますね」

　アデリナはルイトの食事をテーブルに並べていく。
　野菜をふかして柔らかくしたもの、それから柔らかいパン、それにスープなどがあった。

（あ、この椅子……）

　フローラはルイトを椅子に座らせようとした時に気づく。

（これ、私が使ってた小さな子ども用の椅子。抱っこをして食べさせてくれていたお母様に、椅子に座りたい、座らせろ！ってせがんだのよね）

　昔のことを思い出して、くすりと笑ってしまう。

「フローラ？　おもしろい？」
「ええ、ルイト様。これは実は私も使っていた椅子なのです」
「フローラが？」
「ええ、だからお揃い……「いっしょ」ですね！」
「いっしょっ！」

　ルイトは嬉しそうに手や体全体を動かして喜ぶ。

「では、いただきます」
「いただきます！」

　フローラの合図とともに食事を始めるルイトは、美味しそうにほおばる。

（よかった、食べてくれてる！）

　しかし、そこでルイトが普段嫌っているニンジンを喜んで食べているのに気づく。

（あれ……ルイト様、確かニンジンがお嫌いだったのに……）

　不思議に思ったフローラは、アデリナにこっそり尋ねる。

「アデリナ、このニンジン何か特別なことをしているの？」
「え？　ああ、これは裏の畑でとれたものですが、今朝とったから特別に甘いんです。ルイト様はニンジンがお嫌いそうですか？」
「ええ、でも食べていらっしゃるから、びっくりして……」
「なら……旦那様の育てたお野菜が美味しいということですね！」
「そうね、またお父様にお礼言わなきゃいけないことができたわ」

　そんな会話をして笑い合いながら、二人はルイトの食事を見守った。
　ルイトは残すことなく綺麗に食べ、今度は外で遊びたいとせがむ。

「そうですね、天気もいいですし、お支度をして、お庭で遊びましょうか！」
「うん！　おにわであそびたい！」


　侍女であるアデリナに二人分の身支度を整えてもらって、庭へと出た。

「う～ん！　朝早くから活動すると気持ちいいわね！」

　ルイトは初めての庭で嬉しいようで、庭を駆けまわっている。

「フローラ！　おいかけっこしよ～！」
「わかりました。では、いきますよ～！」

　そう言って走り出した瞬間、フローラの腕はがしっと逞しい手に捕まった。

「え……」
「朝から、元気だね～。フローラ、それにルイト」

　銀色の長く綺麗な髪は太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。
　そんな彼の見目麗しい姿、それに胸元につけているバッチを見て、フローラは声をあげた。

「ヴィル・クライン第一王子……！」

　ヴィルは寄って来たルイトを抱っこして、フローラに微笑みかけた。

「今日から僕が監視としてたまに様子を見にくるから、よろしくね」

　先程よりもにっこりと笑って、フローラにそう告げた。

「あ、もし君がルイトの母として失格と判断した時には、即座にルイトを王宮で保護することになっているから。そのつもりでね」

　その言葉に、フローラはより身が引き締まる思いだった。