うしろの正面だーあれ
『…あれ?咲子は?』
教室に戻った隆史が誰にでもなく訊いた。
教室を見渡したが、咲子の姿はどこにも無い。
『知らな〜い。』
早織が言う。
『帰ったんじゃねぇの?』
ニヤニヤしながら杏奈も言う。
それを見ていた楓は複雑な顔をした。
本当は、楓も こんなことなどしたくないのだ。
ズルイと思われても、これは自分の身を守る1つの手段。
本当は咲子のことも好きだし、出来ることなら助けてあげたい。
しかし、もしも咲子を助けたら、次は自分がターゲットになる。
もちろん自分自身も嫌だし、何より母を悲しませたくなかったのだ。
楓は母子家庭で、女手ひとつで育ててくれている母のことが大好きで、尊敬もしている。
朝から晩までパートを掛け持ちして なんとか暮らしているのだが、本当は母が疲れていることを、楓は知っていた。
その顔は日に日に痩せこけていき、目の下にはクマ…。
それでも気にさせまいと、自分の前では笑ってくれる。
楓は、そんな母を悲しませたくなかったのだ。