うしろの正面だーあれ


『何かあったのか?』



ホームレスの男性が訊くと、咲子は少し躊躇ったが、やがて口を開いた。



『…私、いじめられてるの。』



『そうか…。』



『だけど、お母さんは私の気持ちに気付いてくれなくて…家、出て来ちゃった。』



『…そうか、辛かったな。』



『うん…。』



頷いて、咲子は1枚のチョコレートをパキッと割った。



『でもな、お嬢ちゃん。
気持ちっつーのは、伝えないと伝わらないもんだぞ。』



『伝えないと伝わらない…?』



『そう。誰でも、人の心の中が見えりゃ苦労はしねぇ。見えないから伝えて、自分の心の中を見てもらうんだよ。』



『そっか…。
…ありがとう、おじさん。』



『いんや。…おじさんにも、お嬢ちゃんと同じくらいの娘がいてね…。もう何年会ってないんだろう。』



『…おじさんは何でお家がないの?』



純粋な瞳をして咲子は尋ねた。



『…リストラされたんだ。同時に、友人の借金の連帯保証人になってしまってね…友人は逃げて、おじさんが代わりに借金を肩代わりしなくちゃならなくなった。だから家族とは縁を切ったんだよ…。おじさんのせいで、迷惑がかからないようにね。』



『………………。』



『…おっと、お嬢ちゃんには少し難しかったかな。』



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