うしろの正面だーあれ
スッと腕を掴まれた。
体はビクッと拒否反応を示し、一層 肩に力が入る。
が、声が出ない。
叫べない。
防犯ブザーも持っていない。
緊張から息が荒くなり、白い息が大量に口から漏れた。
『…沙良?』
ビクッ・・と再び揺れた後、我に返る。
自分の名前を知っている。
それに、この声…
『稚早ぁ…。』
情けない声しか出なかった。
今にも泣きそうな あたしを見て、稚早は困った顔をして笑った。
『強がれっつったけど、今から動かなくてもいいじゃん。
…つか危ないし。お前、女の子っていう自覚あんの?』
…被害妄想よろしくあるよ。
なんてことは言わなかった。
それは、あたしが稚早を男として見ていたからかもしれない。
あたしは、守ってあげたくなる女を演じたかったのかもしれない。
『…帰っか。』
稚早が ぶっきらぼうに言った。
だけど、その中に優しさがあることを知っているあたしは笑顔で頷いた。