うしろの正面だーあれ



医師や看護士達が黙礼し、後ろに下がった。



隆史は沙良の体を支えながらも憂の元へ向かう。



“憂”ではなくなった“憂”の元へ…。






まるで眠っているかのような、安らかな顔。



唇に色は無いものの、本当に優しい顔である。



今にも起き上がってくるのではないかと錯覚する程に、彼の死顔は綺麗だった。



綺麗過ぎて、涙が止まってしまった。



本当に眠っているだけなのではないのかとさえ思えてくる。



隣を見ると、沙良もまた、隆史と同じように感じていたのだろう。



沙良の涙も止まっていた。



「憂…。」



沙良が、呟くように愛する人の名を呼ぶ。



“なんだよ”



そんな声が聞こえてきそうだった。



「憂…っ」



もう一度、呼び掛ける。



“何 泣いてんだよ”



そう言って、きっと彼は袖で涙を拭ってくれるのだ。



少し照れながら…。



「憂っ…!!!」



返事をしない彼の名を、沙良は延々と呼び続けた。



声が枯れようが、喉が潰れようが、そんなことは構わなかった。



愛する人を、失った日。



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