すべてはあの花のために⑥
「……はあ。(やっべ)」
んだよ、それ。
「(戻るの抵抗あったし、戻ってもやっぱりしんどかったのに)」
でも、こいつのそんな一言だけで一気にそんなのどうでもよくなるとか。
「(……かっこいいとか。こいつに思われるだけで、顔あっつ)」
でも、そんなこと言ってる場合じゃない。
「(葵……)」
無理だった。自分じゃ、あの人には届かなかった。
「(情けねえ。結局お前の手を借りないといけないのかよ……っ)」
ツバサは葵の見えない机の下で、ぐっと指先を握り込む。
「……?」
ツバサの目の前に、コトンとコーヒーカップが置かれる。
「冷めてしまいますよ。熱いうちにどうぞ」
葵の目から、はっきりと伝わった。
『――大丈夫だ。まだ間に合うよ』
「(やっぱりこいつ、なんか知ってるのか……)」
でも、そんなはずはない。
自分たちのことは誰にも言わないでくれと。自分たちの問題だからと。みんなにはそう言ってきたはずだから。
「(でも俺も、どうしてこいつには話そうって。手を貸してもらおうって、そう思ったんだか……)」
なんとかしてくれる。大丈夫。力になってくれる。
どうしてか、彼女にはそう思わせてくれる力がある。
「(……ほんと。かっこいいよ)」
ツバサは、葵が目の前に持ってきてくれたコーヒーに口をつけた。
「葵。……背中、押して欲しい」
そう言うと、目の前の彼女は。
『――待ってました!』
そう言わんばかりの、強気な笑顔で笑った。
「今日何時までいい?」
「卒業式には出るよ。みんなで」
そう言ってコーヒーに口をつける葵に、思わず口角が上がる。
「ちょっとさ、ついて来て欲しいとこあんだけど」
「どこまででも」
目の前の彼女は即答した。
「……だったら一緒にさ、海外行かねえ?」
「………………」
「(やっぱり、外国には行けないんだな)」
「……うん。行こう」
「え……」
すると、葵は一気にコーヒーを飲み干す。
「でも、行きたくても行けないって……」
「まだ、行かないけどね?」
「へ……?」
目の前の彼女はふわっと嬉しそうに笑った。
「行きたい。いつか行こう? みんなで!」
一応、二人旅の予定だったんですけど。
「(でもま、連れて行ってやるよ。お前の運命、俺が変えてやるから)」
――その前に自分の問題だ。
さっとツバサはお会計を済ませ席を立つ。
「さ。ちょっくらまた、デートといこうか」
「……あとでお金返すからっ」
ムスッとする彼女の手を、そっと繋ぐ。
「いいよ。背中押してくれたらチャラだ」
「それじゃあ足りない」
「え。どうしたらいいんだよ」
「全部片付いたらチャラだ!」
それ、お前の方がだいぶ負担じゃん。
「(……俺、今日何回こいつに惚れ直したらいいんだよ)」
でも、可愛くて格好いい彼女が満足そうに笑ってるから、良しとしよう。