すべてはあの花のために⑥

 ツバサに手を引かれ、葵たちは電車に乗った。


「(どうしよう。離してって、言いたいんだけど)」


 だってここは外だ。こんなところ、もし家の関係者に見つかりでもしたら……。
 そう思っていると、すっと手が離された。


「え……?」

「わけがあるんだろ?」


 やっぱり、顔に出してしまっていたのだろうか。


「手」

「え?」

「手から、そんなんわかったから」

「(ま。マジシャンとかなれそうだね……)」

「いや、なんねえけど。俺には向いてねえ」

「そ、そうですか……」


 やっぱり漏れるらしいんだけど! どうしたらいいのっ。


「なあ。最近さ、あの人と話してるのか?」

「……? あのひと……?」


 葵が首を傾げると、ツバサはちょっと思案顔になって、口パクで答えた。


『――信人さん』


 すると、葵の表情が急に強ばる。


「……ちょっとだけ、なら」


『――言いたくない』


 そう、葵の雰囲気でわかる。


「……そっか」


 ちらりと葵の様子を少しだけ見て、背を座席に預けたツバサは、目的地に着くまで車内の天井を見つめていた。



「こっから少し歩くから」


 到着するとツバサはそう言って葵の斜め前を歩き始める。もしかしたら、隣もダメかもしれないと察してくれたのだろう。


「(何がよくて何がダメなのかは、わたしにもわからないけどね)」


 休日にツバサと会っている時点で、すでにアウトかもしれない。でもツバサは、時折振り返って葵の心配をしてくれていた。


「(もう、大丈夫だって。迷子にならないよ流石に)」


 ふにゃりと笑ったら、何故か慌てた様子で正面を向かれてしまったけれど。



 それから、どれほど歩いただろう。
 17時前に、葵たちはある霊園へと到着した。

 ツバサは慣れたように、ある墓石の前に立つ。


【九条家之墓】


「…………ここは、俺の妹。日向の双子の姉の『陽菜(はるな)』が眠ってるんだ」


< 124 / 251 >

この作品をシェア

pagetop