すべてはあの花のために⑥
ツバサに手を引かれ、葵たちは電車に乗った。
「(どうしよう。離してって、言いたいんだけど)」
だってここは外だ。こんなところ、もし家の関係者に見つかりでもしたら……。
そう思っていると、すっと手が離された。
「え……?」
「わけがあるんだろ?」
やっぱり、顔に出してしまっていたのだろうか。
「手」
「え?」
「手から、そんなんわかったから」
「(ま。マジシャンとかなれそうだね……)」
「いや、なんねえけど。俺には向いてねえ」
「そ、そうですか……」
やっぱり漏れるらしいんだけど! どうしたらいいのっ。
「なあ。最近さ、あの人と話してるのか?」
「……? あのひと……?」
葵が首を傾げると、ツバサはちょっと思案顔になって、口パクで答えた。
『――信人さん』
すると、葵の表情が急に強ばる。
「……ちょっとだけ、なら」
『――言いたくない』
そう、葵の雰囲気でわかる。
「……そっか」
ちらりと葵の様子を少しだけ見て、背を座席に預けたツバサは、目的地に着くまで車内の天井を見つめていた。
「こっから少し歩くから」
到着するとツバサはそう言って葵の斜め前を歩き始める。もしかしたら、隣もダメかもしれないと察してくれたのだろう。
「(何がよくて何がダメなのかは、わたしにもわからないけどね)」
休日にツバサと会っている時点で、すでにアウトかもしれない。でもツバサは、時折振り返って葵の心配をしてくれていた。
「(もう、大丈夫だって。迷子にならないよ流石に)」
ふにゃりと笑ったら、何故か慌てた様子で正面を向かれてしまったけれど。
それから、どれほど歩いただろう。
17時前に、葵たちはある霊園へと到着した。
ツバサは慣れたように、ある墓石の前に立つ。
【九条家之墓】
「…………ここは、俺の妹。日向の双子の姉の『陽菜』が眠ってるんだ」