すべてはあの花のために⑥
sideツバサ
俺の家は、両親と俺、日向と陽菜の五人家族だった。修学旅行でも言ったよな。毎年海外に旅行に行くくらい、仲が良かったって。
陽菜は陽気で、元気で活発で。俺らの全部吸い取ったんじゃないかって言うくらい、いつも笑ってたんだ。いっつも、楽しそうだった。
でもある日、陽菜は交通事故に遭った。車に撥ねられて……即死だった。その場にいた、日向と母さんは運良く無事だったけどな。
それからだ。俺の家族が壊れ始めたのは。
最初に、父さんと母さんの仲が悪くなった。
いつも笑ってたのに。陽菜の名前が出る度に、責任の擦り付け合いをしてた。
離婚はしてるわけじゃないんだ。今は別居中。日向は母さんに。俺は父さんに引っ張られた。
母さんはやっぱり日向が陽菜の双子の弟だったから、そばにいたら安心したんだと思う。俺の場合は、まあ長男だし、父さんの名に恥じないよういつも見られてたかな。
父さんはそれからずっと、まるで陽菜なんかいなかったかのように、あいつのこと無視してた。
俺は、そんな父さんが許せなかった。今でも許せない。だから俺は、父さんに覚えていて欲しくて、ずっとあの恰好をしてた。
でも、父さんは陽菜の名前が出る度に、機嫌が悪くなっていった。終いには「そんな名前出すな」まで言うほどに。
俺があの恰好を止めたくても止められなかったのは、父さんにわかって欲しかったからだ。
陽菜はちゃんといたんだって。まだ俺らん中にいるんだって。……そう、伝えたくて。
でも、俺の方はまだいいんだ。全然耐えられる。
でもあいつは。……日向はもう、限界だ。あいつは、自分の名前を母さんに呼ばれないんだ。実の母親なのにな。
いつだったか。母さんが日向を見て『陽菜』を呼んだ。確かにあの二人は似過ぎてたけど、……陽菜はもういないのに、日向はずっとそう呼ばれてきた。こいつが眠ってからずっと。まるで、自分を消されたように。
気休めでもないけど。俺が女の恰好をしていたのは、そのこともあったから。日向の気休めにでもなれたらいいなって、ちょっとは思ってたとこもあった。