すべてはあの花のために⑥

 時刻は20時過ぎ。今日はツバサの家に泊まらせてもらうことになった。どうやらトウセイは、夜遅くに帰ってくるとのこと。


「……頼むからもうちょっと危機感持とうな」

「ん? 大丈夫ですよ? わたし強いので!」

「(いや、そっち関係めっぽう弱いですよね……)」


 ツバサは、自分はやっぱり眼中にないんだと改めて理解した▼


「ツバサくん、ご飯何にしますかー?」

「え? ちょ、何勝手に人ん家の冷蔵庫開けてんの! めっ!」

「あ。可愛い」

「うるさいわね」

「いやいや、戻ってますよ?」

「保つためだ。致し方ない」
(※理性)


 よくわからなかった葵は、しばらく首を傾げていた。


「ご飯はアタシが作るから、アンタは今のうちにお風呂でも入りなさい? お湯張ってる最中で悪いけど」

「ええ?! そんな! 一番風呂を戴くなんて申し訳ないですよ!」

「冷蔵庫勝手に開けといて言うなよ」

「ぶうー!!」


 流石に申し訳ないけど、ツバサが譲る気がなかったので、先に戴くことにした。


「(後からとか言われたら、俺が気になってしょうがないんだって……)」


 と思いながらツバサは、せっせと夕食の支度を進めたのだった。



「……九条さん、か……」


 一度は会いたいと思っていた。ずっと、話してみたいと思っていた。


「はは。ツバサくんの話を聞く限り、かなり短気そう」


 湯船に口元まで浸かり、ぶくぶくぶく……と息を吐く。


「(それに、あっちの方も。多分不味い……)」


 彼も『名前』を呼んであげないといけないのに。


「(わたしには、彼の名を呼ぶ資格なんてないんだけど……)」


 頭のてっぺんまで浸かって、しばらく浴槽の中で考えた。


「(まあ、もうそんなこと知らないけどね。取り戻すんだ、いつものわたし! ……取り敢えず。彼と話すにはやっぱり、あれしかない、かな……)」


 ぶはっとお湯の中から出て、大きく息を吸って、吐いた。


「あおいー。タオル洗濯機の上置いておくからなー」

「はい! ありがとうございます!」


 なんだか至れり尽くせりで、まるでツバサは葵のしつ――――……。


「(……いや、なんでもない。もう気にしない)」


 葵はそのあと、さささーっと体も頭も洗って浴室を出た。


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