すべてはあの花のために⑥

「っ。はっ。はあ……」

「何が違うの。あんた、傷ついてるじゃん」


 さっき首を絞められたせいで、反射的に息が上手くできなくなっているのだろう。


「……大丈夫だよ」

「……。っ、え……?」


 首に添えようとしていた手を、ヒナタは葵の頭上に持って行く。


「オレは、あんたを傷つけない」

「……っは」


 そしてゆっくりと、葵の首の方へ手を下ろしていく。


「オレは、……あんたを殺さないよ。絶対」

「……っ、はっ……」

「話、たくさんしてあげる」

「……っ。えっ? はっ……」

「みんなを怒らせたこと、許すよ。だってオレ怒ったの、限界だったのをあんたにぶつけちゃっただけだし。あんたにだって話したくないことあるのに、無理に聞こうとしたオレらも悪い。……だから、ごめん」


 耳に指先が触れて、体がぴくりと跳ねる。


「……嫌いじゃないよ」

「…………。はっ」


 もう一度首に手が添えられ、また気道が狭まるけれど。


「大丈夫。苦しくない」

「……っ、はあ。はあ」

「ゆっくり息して。オレは殺さないよ。大丈夫」

「はあ……。はあ」


 それからようやく息が落ち着いた頃、「ごめんね」と、迷惑かけたことを謝ろうとした。


「消えろなんて、思ってるわけないじゃん」

「――……! ひな、……っ」


 けれど、先回りするようにぐっと体を引かれ、ぎゅうぎゅうと抱き締められる。


「泣いた?」

「……っ」

「そっか。ごめんね」

「……う、ん」

「最初から友達じゃないっていうのも嘘だから」

「……。うん」

「ちゃんと友達だから。わざわざ黄色いリボン結ばなくていいんだよ」

「っ、うん……!」


 葵はヒナタの肩に頭を置いて、彼の体温を分けてもらった。


「(……あったかい)」


 カチ……カチ……と、時計の針が進み、時刻は0時。日付が、変わった。


「あっ。ひ、……じゃなかった」

「どうしたの(流石にもう呼んでもいいんだけど……)」


 葵がヒナタから少し離れて、満面の笑みを向ける。


「お誕生日おめでとう! ひなっ、(むぐっ)」


 そして途中で気がついて、慌てて自分の口を押さえた。


「ふっくく……」

「ふぇっ……?」


 ヒナタも、そんな葵を見ておかしくなったのか。すごく楽しそうに。


「言っていいよ。てか言ってよ」

「え?」


 嬉しそうに笑った。


「名前。……呼んでよ。あおい」

「……!!」


 そう名前を呼んでくれる彼の笑顔につられて、葵もふんわりと笑う。



「お誕生日、おめでとう! ヒナタくんっ!」


 大きな声で呼ぶと、迷惑そうにするかと思ったけれど、やっぱり彼は嬉しそうに笑ってくれた。


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