すべてはあの花のために⑥
四十四章 信
い、イリュージョン!?
「ヒナタくん! ひなたくーん、ヒナタくんっ、ひなたくん!」
「はいはい何?」
「もう一回! わたしも呼んで!」
「ん? 下僕」
「ええ……。なんでえー……」
「オレはここぞという時にしか呼ばないのでー」
「ぶう……!」
「ぶはっ、ぶっさいく」
楽しそうに笑いながら、ヒナタが葵の頬をつんつん突いてくる。
「(……よかった。笑ってくれた)」
そんなヒナタにつられて笑うと、「笑えるようになったんだ」と、目の前から呟きが落ちる。
「ん? 何?」
「聞かないの? なんであんなことしたのか」
「聞いたら教えてくれるの?」
「……言いたくない」
「そっか」
「でも、別に家とか関係ない。オレが、わけあってしてただけ。もうしない」
俯く彼に、葵はにこっと笑いかける。
「うん。信じてるから大丈夫。ありがとう。もう聞かないよ?」
「……そ」
ヒナタの腕は葵の腰に回ったまま。離そうとはしないみたい。
「……わたしも、話せないこと、あるから」
「それってさ、そもそもなんでなの?」
「え? そ、そもそも……?」
「うん。なんで話せないのかなって、思ったんだけど」
「……話しちゃったら、わたしの大切な人が傷ついちゃうの」
「え」
「言っちゃったら、わたしの大好きな人たちが危なくなるの」
「…………」
「言いたくないこと、言っちゃったら絶対。わたしのこと、嫌いになる」
「ならないよ」
おでこにこつんと、同じものを合わさってくる。
「……! ひなっ」
「絶対にならないよ。信じて」
「で、でも」
「どんなこと? そんなにあんた、みんなに嫌われるようなことしたの?」
「っ……」
「……じゃあ、たとえばの話だけど」
ヒナタの手が、葵の背中をとんとんとやさしく撫でる。
「オレの友達怒らせても、あんたのこと嫌いになんないよ?」
「……でも、バレンタイン嫌いって言った」
「だから苛々してたんだって。あと巻き込みたくなかったから。いい?」
「……腑に落ちない」
「そうなの。落ちなさい」
「……わかった」