すべてはあの花のために⑥

 ちょっと拗ねた葵に、ヒナタは小さく笑う。


「オレに怪我させても、嫌いにはならないよ」

「…………」

「動けなくなるくらい酷くても、嫌わないよ?」

「…………」

「たとえオレが死んでも嫌わない」

「……! そんなこと……っ」


 とんとんと背中を叩かれる。


「たとえばの話。あんたがそうするなら、わけがあるんだなって思うって」

「え……」


 まだ、耳に残っている。さっき話した、自分の話と一緒だ。


「あんたのこと、オレも信じてるから。だからあんたも、オレのこと、オレらのこと信じてよ」

「……っ」

「さっき信じてくれたじゃん。嫌われるの覚悟だったよ。あんたに【あれ】見せるの。でも信じてくれたじゃん。わけがあるだなって思うよって。だから信じて? 嫌いになんてなんないよ」

「……う、ん……」

「いいよ。一気じゃなくて。少しずつでいいから、何かあったら言って?」

「え……?」

「『言えない』って。『言いたくない』って。すごく苦しそうに言うから。……だから、言いたくなったら言えばいい。絶対に嫌ったりしないから。約束する」

「……う、ん。あり、がとう」

「いいえ。どういたしまして」


 小さく震える彼女を、もう一度ヒナタはやさしく抱き締めてやる。


「(誰が傷つく……? 誰が、危ない目に遭うの……)」

「あ、のね。ヒナタくん」

「ん? なに?」


 控えめに、そう言った彼女に回してる腕を少しだけ緩める。


「……あの赤い封筒、ヒナタくんが持ってたの。知ってたの」

「え」

「ご、ごめんなさい」

「いやなんで。どうして知ったの? どっかで見た?」

「……空き教室にいたヒナタくん、見たの。一人で何してるのかなって思ったら、それ持ってたから」

「……怖くなった?」


 ヒナタがそう言うと、葵の体が硬くなる。


「泣いた?」

「……その時は、なんだか裏切られた気持ちになって。悲しく、なって……」

「そっか。……泣かしてごめんね」

「っ、ううん。大丈夫。今はもう、信じてるからね!」


 葵がふわって笑うと、ヒナタも小さく笑い返してくれる。


「でも、なんで信じられるの? オレは……あんたなら信じるけど、一回そんな裏切られた気持ちになったんでしょ? オレだったら信用しないけど」

「……ごめん」

「いやいいよ。今信じてくれてるんならそれで。……でもオレ、あんたに嫌われるようなことしかしてない気がするし。何があんたを変えたのかなと、思ったんだけど」


 葵は、どうしようかと悩んだけれど「お、怒らないでね?」と前置きして、ゆっくりと話をすることにした。


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