すべてはあの花のために⑥
「ごめんけど。オレはあんたのこと、友達だなんて最初から思ってないから」
それは、どうしてアキラと婚約者同士なのかを問い質そうとした時の話。
「ほんと、あの子もどうしちゃったのかしら。それにっ、……あんの愚弟!」
生徒会室から出て行ったツバサは、廊下の角を曲がった直後。
「え。日向? どうしたのよ」
小さく蹲っているヒナタを発見。
全く動く気配がなかったので、ツバサはヒナタの隣にしゃがみ込んだ。
「どうしたの日向。お腹痛い?」
何も話さない彼の手は、爪の痕がつきそうなほど強く握られていた。
「……言い過ぎたって、思ってる?」
「オレは、思ったこと素直に言っただけだし」
「そうね。でも、怒らなくてもよかったって思ってるんじゃないの?」
「……だって。あいつが、悪いから」
ヒナタはまたぐっと力を入れて、膝を抱え込む。
「どうして? 確かにあの子が変な言い方したから、みんなが嫉妬して怒ってたけど」
「……ってないから」
「え?」
「アキくんのパーティーで見た時から、笑った顔見てない。泣いてる顔も、最近見てない。最近のあいつ仮面ばっかり」
「…………」
「話せないって、話したくないって言いながら、言いたいのに言えなくて苦しいって。あいつ、そう言ってる」
「…………」
「言えなくて、苦しそうで。……何抱えてんのか知らないけど。できないならさせてやろうと思って」
「だから、あんなこと言って泣かせようとしたの? 違う理由でも泣いたらスッキリすると思ったから? あの子が一番言われたら傷つくこと、そんなこと思ってないのに言ったの?」
「……でもダメだった。もうオレらの前じゃ、泣いてくれないのかもしれない。オレらにつらいんだって。苦しいんだって弱音、吐いてくれない。……吐けないのかもしれない」