すべてはあの花のために❾
オレはスケッチブックをもう一度前に出してあげる。
そこに描いたのは、『こちらを向いている向日葵』だ。
「はい。情報提供者はこの向日葵でーす」
「「「はい?」」」
「え。ま、まさか……」
一人、彼女の名前の手がかりを知っているコズエ先生だけは、目を見開いている。
「くじょう、くん……」
「……ま、あいつには絶対に言うなって言われてるんですけど。でも、事情を全部知ってるわけだし。味方なわけだし。詳しくはまた後で、このことはちゃんと話しますよ先生」
それから一旦スケッチブックを置き、オレはアイへと向き直る。
「それからオレも、アイに謝りたいことがあるんだ」
「え? お、俺に……?」
「そう」
少し目線を下げて、言わなければいけないことを伝える。
「あの時、もっとちゃんと、周りを見ておけばよかった。オレの視界の中には、あいつしかいなかったから。だから、気づいてやれなかった」
「え?」
「オレが気づいてたら、また違ったかもしれない。……まあアイも踏み込んできてたら、勇気があったら違ったのかもしれないね」
「……?」
この勇気は、決してアイだけに言ったんじゃない。自分自身にもだ。あの時、男としてあいつに勇気を出して声を掛けてたら、また違ったのかもしれないんだから。
「過去は、やり直せないんだ」
「……九条、くん……?」
「でも、謝ってくれてありがとう」
「……お礼なんか。言ってもらえる資格ないのに」
「許すよアイのこと。だからもう、苦しくないでしょ?」
「……俺、は……」
「でもごめんね。オレがアイに気づいてあげられなくて」
「……いや、どういうこと?」
レンも先生も、目を閉じていた。カオルは、耳を澄ませてるのかな。先生を凝視してるけど。アイは、怪訝な顔をしてオレを見てる。
オレは。……ゆっくり息を吸って――……吐いた。
「……むかしむかし。あるところに」
――……こんなところで、立ち止まってちゃいけない。
「花畑でずっと泣いている、かわいい少女がいました」
――オレが、前に進めさせてあげる。
「そんな、いつも綺麗な涙を流している少女を、……ある日少年が見つけました」
「少年……?」
苦しいんだ。思い出すだけで。つらいんだ。過去をやり直せなくて。
――――でも、このままじゃダメだから。
「少年は、なんとかその少女の涙を止めたいと思いましたが、声を掛ける勇気がありませんでした」
悔しいんだよ。なんであの時……って。思い出すだけで、後悔の念が渦を巻くようにオレを支配する。
「でも、どうしても止めてあげたかった。声が聞きたかった。笑顔が見たかった。……だからその少年は、いつも元気で明るい双子の姉の姿を借りることにしました」
アイと先生は息を呑んだ。カオルは小さく笑っていた。どうやら話がわかったようだ。レンは目は瞑っているけれど、ちゃんと聞いてくれてるだろう。
……つらい思いをするのなんて。オレだけで十分。
背負ってあげる。オレが…………――全部。