すべてはあの花のために❾
「(――……ッ)」
何も、考えられなかった。いや、何も考えてなかった。
慌ててさっきの部屋に戻って、誰もいないことを確認し。『そうしないといけないんだ』と、体に言い聞かせながら蝶ネクタイを首に当て、番号Bの方で電話を掛けた。
電話を掛けたら、ほんの少し涙声だった。何があったんだろう……でも。
「(知らない番号から掛かってきたのに、よく取ったな……)」
やっぱりどこか危険意識が低いハナが心配になった。
そして何故か、リアル変態仮面から怪盗さんに昇格。それもそれでちょっと恥ずかしいけど。
しかもどうやら泣いてる原因は、好きって気持ちを多数から向けられたせいらしい。……おい、誰だよ。知らない間にハナに告った奴。
「(いや、いっぱいいたわ、そういえば……)」
トーマにシントさんにカナ。あ。オレもじゃん。うわー。ハナ、モッテモテ……。
「(でも、こんなふうに考えられるようになったってことは……)」
それがハナにとって、変われたところなんだろう。そんなつらい思いをして欲しかったわけじゃないんだけど。
「恋とは苦しいものですよ」
そう言ったら、『……あなたも。くるしい……?』と、切なげな声で言うハナがかわいくて。それだけで胸が苦しくなる。
「……そうですね。とっても」
苦しいよ。だって、本当の幸せと、決めつけた幸せの間で。揺らいでるんだから。
……ま、ハナを狙ってる奴が多いのも原因ではある。
「(でもハナは、きっとその運命のせいで、自分が誰かを好きになったとしても胸に秘めておくんだろう。……いいや。そんな自分なんか知られたら。本当の自分を知られてしまったら、誰も自分のことなど好きになってくれないんじゃないかとか、思ってるかもしれない)」
そんなハナに、オレは勇気なんかをあげることなんてできないから。
「それではもう一つ、賭けをしましょうか」
そう。これはハナが幸せになるための第一歩。
「好きになった相手に、自分の気持ちを伝えてみませんか」
そしてほぼ強制。だってオレ、絶対に助けるしね。
いやだ! って全力で拒否られたけど、なんでかって聞いたら、恥ずかしいって言いやがった。
「今すぐ抱き締められたらいいのに」
あー、だめだめ。こんなのレンじゃない。オレでもないけど。……壊れちゃったじゃんバカ。
正直言って、レンを好きにさせる自信は満ち溢れているので、自信満々に言ったらなんか知らないけど笑われた。直接見られないのは残念だけど、笑顔になってくれたなら、それでいい。
「また苦しくなったら、私が聞いてあげますよ」
ハナはなんでも溜めすぎだよ。だからオレが聞いてあげる。アオイなんかしょっちゅう電話してくるんだから。
……でも、本当は。
「ただ、あなたの声が聞きたい」
アオイでも、やっぱり違うんだ。オレはただ、ハナの声だけが聞きたい。
「私はあなたの気持ちを奪いに行きます。それまでは決して、誰にも奪われないでくださいね」
君を必ず、幸せな道へとオレが導いてあげるから。
……でも、誰を好きになるなんて、そんなのハナにしかわからないことだ。そこまでは、オレが決めちゃいけない。ハナの幸せはハナが決める。
オレは、王子とだったら幸せになれると思ってるから、そうするけど。
「そうですよね。誰を好きになるかは、あなたもわかりませんから」
だから、ハナが本当に幸せなら。
「本当は私が幸せにして差し上げたいけれど。……あなたが幸せなら、私も幸せだ」
オレも、それで十分なんだ。これでいい。これで、……いいんだから。