すべてはあの花のために❾

 胸がチクチクと痛む。そんなのは気のせいだって自分に言い聞かせて、気づかない振りをする。
 ダメだダメだ。こんな暗い気持ち。ハナに移ってしまう。


「もし、急にどうしても私の声が聞きたくなったのなら、時間は気にしなくていいですよ」


 そう言って軽口を叩いたんだけれど。


『……それは、ダメですね』

「どうしてですか?」

『……それだと。いつでも、掛けちゃいます』

「え」

『時間も無視しちゃいます。毎日でもっ。掛けちゃいますよ。あなたの声を聞くだけで、安心する。今も……きりたく、ないんですっ』

「………………」


 ハナが一つ言葉を零していくだけで、自分の顔が熱くなるのがわかる。


「そう言っていただけて、嬉しい」


 胸が締め付けられる。苦しい。
 でも、すごく甘くて。やさしい締め付けが、心地よくもある。


「流石に、そこまでいくと困りますね」


 息をするのでさえ、苦しい。……でも、それと同時に。


「私があなたに好いてもらっていると勘違いしそうで」


 チクチク。ジクジクと、嫉妬という名のトゲが、胸を突き刺してくる。


「(はあ。ハナの前だと、どうしても揺らぐ……)」


 決めたんだってば。オレは、オレの決めつけた幸せを選ぶんだって。


「でも、それではダメなんです」

『……え』


 ダメだ。はな。揺らぐから。


「今の私では、ダメなのです」

『……かいとう。さん……』


 そんな切なげな声で呼ばないで。
 揺らいで。しまうから……。


「この、仮の姿では……」


 ダメなんだ。はな。オレじゃ、なくて……。

 ぐっと手に力を入れる。
 ……揺らぐな。オレは、オレの幸せを自分で決めるんだっ。


「……っ、いいですか。あおいさん」


 ハナ、……ううん。
 ……あおい? 聞いて。


「必ずあなたを、幸せな道へ導きます。不安ならいつでも連絡してください。私も、好きな時に掛けさせていただきます」


 オレからは掛けないよ。だってもう。揺らぐのが怖いから。


「きっと変えることができたなら、今の私は消えるでしょう」


 あおいをあそこから助けられることができるなら。絶対にもう、こんな姿のオレは必要ない。


「仮の私がですよ。私はずっと、あなたの傍にいますから」


 仮の姿のオレが消える代わりに。あおいのそばにはきっと、王子様がいてくれるよ。


「そうなった時、あなたが私を選んでくれることを、願ってます」


 あおいがレンを選ぶこと。それが、オレの思うあおいの幸せだから。レンを選んで欲しい。
 ……でも。どうしても、汚いオレが邪魔をしてくる。ちょっとでも、君に会う度に願ってしまう。君を見つける度に。君に。触れる、度。話す度。……こんなオレを。選んで欲しいなんて。愚かなことを。

 だから、こんなオレが出てくる前に。


「……それではまた、あおいさん」

『……っ。さよう、なら。怪盗、さん……っ』


 あおいの声を聞き終えた瞬間にボタンを押して、強制的に声を遮断する。


「……。っ。は……っ。……くう……っ」


 ……苦しい。……くるしいっ。
 まだ耳に。あいつの声が。切なくて。甘い声が残ってる。


「……っ。あおい……っ」


 無理だ。抑えらんない。思い出すだけで。体が熱い。


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