すべてはあの花のために❾
ガシッとタオルを引っ掴み、もう一度浴場へ駆ける。ガラガラっと戸を勢いよく開けて、飛び込むように風呂に浸かった。
「ふえ……。……え。ひ、ヒナタ? どうしたんだ……!?」
どうやらチカが、風呂の中で寝そうになってたみたいだ。オレが入ってきて一気に目が覚めたみたいだけど。
「……どしたんマジ。おま、……顔だけじゃなくて体まで赤」
「寒いとこにいたから赤くなっただけだしっ」
「いやいや、流石に無理あるわ。……どうしたんだよ。あいつになんか言われたんだろどうせ」
「違うしっ。オレが勝手に妄想して赤くなって熱くなってもうどうしていいかわかんなくなって冷ましに来たんだし」
「それだとお前のイメージがガラガラ崩れていくぞ……」
「……もうっ。今はちょっとほっといてっ!」
――熱い。まだ耳からあいつの声が聞こえる気がする。このままだったらまた揺らぐ。……もう、ダメなんだってっ。
「はあ。……よくわかんねえけど、なんかあったら言えよ?」
「……。ん」
とんとチカはオレの肩を叩いて「え。熱っ……」って言いながら脱衣所に戻っていった。
「はあ。……あおいの。ばか……」
悪いのは自分だって十分わかってるけど。落ち着くまで、取り敢えず湯に浸かっておくことにした。
落ち着いて脱衣所に戻ると、チカが待ってた。
「……何」
「お。調子戻ったじゃん。よかったな」
にかっと笑って、そんなことを言ってくる。
「え? 何のこと?」
「ばーか。妄想男だっただろうがさっき」
「は? 何。オレただもう一回風呂に入りたかっただけなんだけど。ここ露天風呂だし」
「いやいや、無理あるわ……」
「いやチカ。マジだって。……え? 寝惚けてんじゃないの?」
「え?」
「そういえばオレが入ってきた時チカ寝そうだったけど……何。夢でも見た?」
「え??」
「妄想男? 何それ。チカのことじゃん。そのうちどうせ、あいつの裸を想像するよね、そういう奴って」
「いや、それはもう熱海で一回……」
「……はあ?」
「え?! いやいや、……え? オレ。寝惚けてた……? しかも何暴露してんだよ……」
「はあ。これだから初な野郎は困るんだよ」
「え? な、なんかごめんな?」
「もうやめてよね、勝手にオレが妄想男とか言うの。ほんとマジで迷惑」
「わ、悪かった……?」
よし。誘導成功。単純な奴でよかった。
「……そうか。あれは夢だったのか」
「何。もし夢じゃなかったらどうしてたの」
「ん? いや、前に比べたら今の方がいいって言おうと思ってただけ」
「……あっそ。悪かったね夢にして」
「へ?」
「何でもないし」
なんだよ、チカのくせに。バカチカバカチカ。
「いや聞こえてる……」
「バカチカ」
「へえへえ。早く部屋戻ろうぜ? 腹減った」
「そうだね」
多分気がついてるんだろうけど、敢えて言わないところも助かってる。
「……ありがと」
「ん? なんか言ったか?」
「チカバカ」
「はいはい……」
そんな友達を持ててよかった。
こんな捻くれた奴とつるんでくれて。……ありがとう。チカ。