すべてはあの花のために❾
カナもカナで、あっさりとハナを連れて行かれたみたい。ほんと、何が『俺は俺のやり方で』だよ。全然じゃん。
「(でも、自分からマサキさんについていったってことは……)」
彼は、殺すつもりがないってことか……? それに多分、これは願いだ。
オレが、手伝えるところは……『あそこ』が、ギリギリか。
急いでみんなで、カナの実家に行った。
……あれ? そういえばエンジュさんたちってどうなったんだっけ? ま、それどころじゃないけどねー。
カナに案内されて、部屋の奥へと歩いて行くが、誰一人として擦れ違わない。
「(ハナ。無事でいて……)」
カナが開けた戸の向こうには、気持ち悪いぐらいの男だらけの屍の山と、戸の近くに立っていたマサキさん。そして、シオンさんとハナの姿。
「え。……どうしたの、これ」
取り敢えず、なんでこんなことになってるのかと思ったけど。
「(……っ、はな……)」
ハナの服は汚れや傷が目立ち、ハナの頬にも少しだけ刃物で切られたような痕があった。
「(……ざけんな)」
ハナに怪我させやがって。でも、一番ふざけんなって言いたいのは、オレ自身にだ。
「(また、守ってやれなかった)」
まあオレなんかが守っても、絶対ハナの方が強いんだけど。
しかもなんかハナの奴、勝手に賭けしてるし。
「カナ、もしかしてあいつが負けると思ってんの」
「え? ……ヒナくん。寧ろなんでそんなに冷静に見ていられるの」
カナが、心配そうに勝負の行く末を見ていた。そんなこと、しなくてもいいのに。
「え。だってこの勝負、最初っから決まったようなものじゃん」
あ。そうだ。勝負中の様子と、シオンさんのバカ面を動画に撮っておこー。
そう思って、スマホのカメラを動画に切り替えて構える。
「だってあいつ負けないし。先攻を譲った時点でおじさんの負け。最初の一回で全部ペア作るよ、絶対」
だってハナは全部、あの一瞬で覚えてしまうんだ。記憶力でハナに勝てる奴なんか、どこにもいやしないよ。
スマホを見ながらカナに自信満々にそう答えてやる。……あは。シオンさんの顔が歪んでいくし。面白ーい。
あっという間にハナが勝って、賭けのカナの話を聞くことになった。
「組の子って知らなかったし」
……ああ、カナがね。オレらの誰が、どの家の子どもかまでは、わかってなかったんだろうな多分。
それからカナが、カナ自身が知っている本当の話をした。
「(これでオレらの後悔も、きっと拭われる……)」
ユズを助けてやれなかったこと。先生を助けてやれなかったこと。
ちらりとみんなを見ると、少しほっとしたような。でも、あの頃を思い出して悔しそうな顔をしていて。……ああ、オレと一緒なんだなって思った。
「だ、そうなんだけどー。カナデくんにその情報、教えてあげてもらってもいいですかー?」
そう言って、ハナがオレたちに視線を向けてきた。
「ほんと、お前に隠し事はしても無駄だよなー」
「まあオレに勝とうとは思わないことだけどね」
カナの件に関しては、オレらが関わっていたのは確かだ。でもオレは、オレらはハナには話していないはずだ。
「(話したのは、……アオイにだけだ)」
それなのに。
「それで? 何であんたは知ってるの」
どうしてハナは知っているんだろうか。
「……何となくそうじゃないかと思っただけなんだよ本当に」
でも、そうだった。ハナはよく気がつくんだ。よく見えてる。それに、頭もいいんだった。
「……カナデくんが前進した時、彼をすくえるように」
そう言ったハナの顔が少しつらそうだったけど、それも一瞬だ。
「(オレらのこと。ハナはハナで、ちゃんと見ててくれてるんだ……)」
なんだか、そう思ったらほんの少しだけ、恥ずかしくなった。