【マンガシナリオ】幼なじみと再会したら、予想外の求愛が始まりました
第4話 水輝と元カレ
○翌朝。朱莉の家(一般的な二階建ての一軒家)
家のインターフォンが鳴り、朱莉が玄関から外に出ると、制服姿の水輝がニコニコ顔で立っていた。
水輝「おはよう、あーちゃん」
朱莉「……何しに来たの?」
水輝「決まってるじゃない。あーちゃんのこと、お迎えにあがりました」
水輝は胸に手を当てて、執事のように恭しくお辞儀をしてみせる。
朱莉「……そう」※冷たい目で見つめる
朱莉「お母さん、行ってきます」
玄関から家の中の母に声をかけると、まだお辞儀をしたままの水輝の横を朱莉は素通りする。
水輝「えっ。ちょっと、あーちゃん!? 置いていかないでよ」
朱莉「水輝にわざわざ迎えに来てもらわなくても、学校くらい一人で行けるから」
早足で、車通りの多い道を歩く朱莉。
水輝「そんなつれないこと言わないで。一緒に行こうよ」
朱莉「ちょっと、ついてこないで!」
※先に行く朱莉を、水輝が追いかける絵。
水輝「ていうか、俺たち学校同じ方向だから……っ! 危ない」
朱莉「わっ」
朱莉は水輝に、いきなり肩を抱き寄せられた。突然の身体の密着に、朱莉の心臓が跳ね上がる。
朱莉(なっ、なに!?)
次の瞬間、朱莉のすぐそばを自転車が猛スピードで走り抜けていった。
朱莉(び、びっくりした……ていうか、水輝ってこんなに力強かったの?)
恐る恐る見上げる朱莉に、ふっと微笑んでみせる水輝。
水輝「大丈夫?」
朱莉「う、うん」
水輝「危ないから、あーちゃんはこっちね」
肩の手が離れ、水輝が車道側に回る。
朱莉(水輝に守ってもらうなんて、何か変な感じ。昔はどちらかというと、私のほうが水輝のことを守っていたのに)
・幼稚園生の頃、他の園児にいじめられて泣いている水輝を守るため、水輝を自分の背に隠す朱莉の絵。
朱莉(水輝が触れた部分が熱くて、ドキドキと脈打つ音がうるさい。何なのこれは)
何でもないように歩く水輝の隣で、必死に平静を装いながら歩く朱莉。
水輝「これからは、あーちゃんのことは俺が守るから。安心して?」
朱莉「み、水輝に守ってもらわなくても、自分のことは自分で守るから」
水輝に笑顔を向けられ、ドキッとした朱莉はふいっと顔をそらす。
朱莉(さっきから、顔が熱い気がする……)
(水輝に笑いかけられると胸が高鳴るなんて、こんなのおかしい)
水輝「ねえ、あーちゃん。昨日、家でさ……」
朱莉「……」
水輝に話しかけられるも、朱莉は無視。
それでもめげずに、ニコニコと嬉しそうに話し続ける水輝。
○昼休み。教室
カバンからお弁当を取り出し、自分の机の上に置いた朱莉に、水輝が声をかけてくる。
水輝「あーちゃん、お昼食べよーっ」
朱莉「いや、いい。ご飯はひとりで静かに食べたいから」※冷たく言い放つ。
水輝「そんな冷たいこと言うなよ。俺ら、幼なじみだろ?」
水輝が、朱莉の肩に手をまわす。
朱莉「ちょっと、やめてよ。暑苦しい」
朱莉(やばい。私ったら、また可愛くないことを言っちゃった……)
真桜「ねえ、芦原くん。本郷さんに断られたのなら、わたしたちと一緒にお昼食べようよ」
クラスでも、特に派手な女子グループのリーダー格・真桜が水輝に声をかけてくる。
・仲島真桜: ツインテールの美少女で、水輝に気がある。
朱莉「ほら! 仲島さんが誘ってくれてる。私のことは気にせず、早く行きなよ」
水輝に早口で言うと、朱莉はお弁当を持って教室を出ていく。
○旧校舎の空き教室
朱莉は、教室の喧騒から離れたこの場所で、いつもひとり静かに昼食を摂っている。
朱莉(はあ、やっと静かになった。さて、ご飯食べよう)
ホッと息をつき、席に着いた朱莉が箸を手にお弁当を食べかけたとき。
水輝「へぇー。こういうところがあるんだ?」
水輝がキョロキョロしながら、空き教室に入ってきた。
朱莉「ど、どうして!?」
水輝「どうしてって、俺が一緒にご飯を食べたいのは、あの子たちじゃなくて、あーちゃんだから」
朱莉(っ……)
不覚にも、朱莉の胸がキュンと高鳴る。
水輝「だから、あとを追ってきたんだよ」
水輝は、朱莉の隣の席に腰をおろした。そして、朱莉のお弁当を覗き込む。
水輝「わぁ。あーちゃんの弁当美味そう。もしかして、手作り?」
朱莉「そうだけど……」
水輝「へえ。手作りなんて、すごいね」
朱莉「……良かったら、食べる?」
水輝「えっ、いいの!?」
朱莉が頷くと、さっそく水輝は朱莉の箸に挟んでいた食べかけの玉子焼きに、パクッとかぶりついた。
朱莉「!」
水輝「んー。美味い」
朱莉「ちょっと、水輝!」
水輝「え。もしかして、食べたらダメだった?」
朱莉「ダメじゃないけど……か、か」
水輝「か?」
朱莉「か、間接キス……!」
顔から火が飛び出す朱莉の絵。
朱莉(カラオケのときも、私のストローに口をつけられたし。水輝ったら、一度だけでなく二度までも……!)※内心大慌ての朱莉。
水輝「ふはっ。あーちゃん、顔真っ赤だよ?」
顔が火照る朱莉に対し、余裕の笑みを浮かべる水輝。
朱莉(なっ、何よ。水輝ったら、余裕ぶっちゃって。もしかして間接キスを気にしてるのは、私だけなの!?)※ムッとする
水輝「俺、あーちゃんのご飯気に入った。ねえ、俺にも弁当作ってきてよ」
朱莉「嫌よ(ご飯をモグモグしながら、即答)」
水輝「えーっ。作ってきてくれたら、お礼に俺からキスしてあげるのに」
朱莉「……」
唇を尖らせる水輝を、じとっとした目で見つめる朱莉。
朱莉(……さすがにキスはごめんだし。お弁当なんて、絶対に作ってあげないんだから)
○5限目の体育の授業。学校のグラウンド
この日の体育では、ハードル走をすることに。
クラスメイトの真壁草太がハードルを飛び越える姿を見て、女子が目をハートにしてキャーキャー。
その様子を見ながら、水輝が別の方向に目をやると。
ちょうど朱莉がスタートするところだった。
水輝(あーちゃん、頑張れ!)
水輝が心の中で応援するも、朱莉はハードルに足を引っ掛けて転んでしまった。
水輝(あっ)
しかし朱莉は、何事もなかったようにすぐさま立ち上がり、速度を落として何とかゴール。
水輝(あーちゃん、ちゃんとゴールできてえらいよ)
水輝が心の中で朱莉に拍手を送っていると、朱莉の膝は土で汚れ、血がにじんでいるのが見えた。
水輝(膝、痛そうだな。次が、自分の走る番でなきゃ、今すぐにでも駆けつけるのに)
体育教師「それでは、次。位置について、よーい……」
──ピーッ!
ホイッスルの音に合わせてスタートし、水輝は長い足で軽々とハードルを全て飛び越え、見事1位でゴール。
その途端、水輝を待ち構えていた数人のファンの女子が彼を取り囲む。
真桜「芦原くん、お疲れ様。汗かいたでしょ? 良かったらわたしのタオル使って?」
女子A「いえ、私のを! 私のタオルは、冷却効果あるから。気持ちいいよ」
ハードル走を終えた水輝が額の汗を拭いながら、さっきまで朱莉がいたほうを見るも、朱莉の姿がどこにも見当たらない。
水輝(あれ。あーちゃんは?)
キョロキョロしていると、傷口を洗おうとしているのか水道まで向かって歩く朱莉を発見。
そんな朱莉に、草太が声をかけるのが見えた。
水輝(えっ。なんで元カレのあいつが!?)
水輝「ごめん。俺には想ってる人がいるから、その人以外からの物は受け取れない」
水輝に渡すタオルでまだ言い争っているファンの女子たちに断ると、水輝は慌てて朱莉たちの元へ走る。
水輝「あーちゃんっ!」
朱莉「あっ」
水輝が声をかけると、朱莉が振り向いた。
草太「膝、ケガしてるし。やっぱり保健室に行ったほうが良いよ」
朱莉「いい。これくらい、大丈夫だから」
草太「遠慮するなって。俺たちの仲だろ?」
※爽やかに微笑む
水輝(俺たちの仲って、中学生のとき朱莉を傷つけたくせによく言うよ)
馴れ馴れしい様子の草太に、イラッとする水輝。
そして、朱莉の肩にまわそうとする草太の手を、水輝がガシッとつかんだ。
草太「何?」※睨みながら
水輝「朱莉、嫌がってるだろ。保健室には、俺が連れていく」
草太「は? なんだよ、転校生」
二人の間には、バチバチと火花が飛ぶ。
朱莉「あのー、お取り込み中のところ悪いんだけど……」
朱莉の声に、睨み合っている二人がハッとする。
朱莉「私、絆創膏持ってるし。保健室に行く必要なんてないから」
真顔でキッパリ言うと、朱莉はひとりで水道のところまで行き、蛇口をひねって膝を洗いはじめた。
そんな朱莉に、ポカンと呆気にとられる水輝と草太。
朱莉(人生、何があるか分からないんだもの。自立して、何でもひとりでやらなきゃ!)
膝の土を落とし、傷口はすぐ綺麗になった。
朱莉が水道の水を止めると、スッとハンカチが渡された。
水輝「良かったら使って? それ、まだ使ってないから」
朱莉「……いい」
水輝「そんなこと言わないで」
水輝が膝の傷口に触れないよう、水を拭き取ってくれる。
そして、朱莉が持っていた絆創膏を水輝が横から取り、シートを剥がした。
水輝「俺が貼るよ」
朱莉「そのくらい、自分でできるけど」
水輝「いいから、俺にやらせて。あーちゃんのことが心配なんだ」
有無を言わさず絆創膏を貼る水輝に、朱莉はされるがままになる。
朱莉「人生、何があるか分からないから。人に頼らず自立して、何でもひとりでできるようにならなくちゃいけないのに……」(ボソッと)
水輝「人に頼らず何でもひとりでって、それは良い心がけだけど……高校生のうちからそんな寂しいこと言わないでよ」
朱莉「え?」
水輝「無理せず、頼れるときは頼って。周りの人と、助け合って生きていったら良いじゃない。朱莉には、俺がいるんだし!」
ニッと歯を見せて笑う水輝に、朱莉の胸がとくんと跳ねた。
朱莉「……っ。そ、そうだよね。今は、水輝がそばにいてくれるものね」
頬を赤らめながら珍しく肯定した朱莉に、水輝の顔がパッと明るくなる。
水輝「それじゃあ、あーちゃん。俺と結婚……」
朱莉「その話は、また別!」厳しい顔でズバッと。
分かりやすくガクッと肩を落とす水輝を見て、朱莉はクスッと笑う。
水輝「えっ。あーちゃん今、笑って……?」
朱莉「うん。水輝、私の怪我のこと、心配してくれて……ありがとう」※照れくさそうに
水輝「うそ。あーちゃんが俺に、お礼を言った!? やばい! 嬉しすぎるんだけど」
※興奮気味に
朱莉「もう。水輝ったら、お礼を言ったくらいで喜んで、大袈裟よ」
朱莉(昔から変わらない水輝のことは、信じても良いって……少しは頼っても良いって、不思議と思えたから)
水輝「あーちゃんのレアな笑顔、めっちゃ可愛い! スマホのカメラで撮って、毎日眺めたい」
朱莉「嫌だ。そんなの絶対にやめてよね」
草太「……」
朱莉と水輝の二人を、草太が複雑そうな顔で見つめていた。