【マンガシナリオ】幼なじみと再会したら、予想外の求愛が始まりました
第5話 水輝の想い
○翌朝。本郷家のキッチン
朱莉が、仕事に行く母と自分のお弁当用にとフライパンで玉子焼きを作っている。
母子家庭の本郷家では、料理は主に朱莉の担当。
朱莉「そういえば、水輝が昨日お弁当作ってって言ってたな」
水輝が『俺、あーちゃんのご飯気に入った。ねえ、俺にも弁当作ってきてよ』と話す、第4話の回想。
朱莉(もし作っていったら……喜んでくれるのかな?)
朱莉の脳裏に、笑顔の水輝。
それと同時に、「作ってきてくれたら、お礼に俺からキスしてあげる」という、第4話の水輝の言葉が頭を過ぎり、朱莉は首を横にブンブン振る。
朱莉(別に、水輝にキスして欲しいわけじゃないから)※顔を赤らめて
朱莉(昨日の体育のとき、ハードル走で転んだ私を水輝は心配してくれたし……よし。)
冷蔵庫から追加で生卵をひとつ取り出し、フライパンで調理する朱莉。
○学校の廊下の掲示板前。休み時間
掲示板には、先日の実力テストの結果の紙が貼りだされている。(※成績の上位20名のみ発表)
そこには、【第一位 本郷朱莉】とある。
男子1「また、本郷さんが一位か」
男子2「1年の頃から、ずっと一位だよな。まじ、すげぇわ」
朱莉「……」
少し悔しそうな男子たちを横目に、表面上はなんてことのない澄ました顔で掲示板を見ている朱莉。
しかし内心では、「やった! 一位、死守!」と思いきりガッツポーズし、小躍りしている。
表面上はいつもと変わらぬ朱莉を、横からじーっと見つめていた水輝が声をかける。
水輝「あーちゃん、成績が学年でトップとかすごいじゃん!」
朱莉「そう?」
水輝「うん。俺、1位とかとったことねぇもん。だから、あーちゃんももっと喜んだら良いのに」
朱莉(喜ぶ……か)
水輝に言われ、朱莉は口角をわずかに上げてみる。
それを見た周りの生徒たちは、驚きの表情。
※朱莉は学校で、普段ほとんど笑わないため。
男子3「えっ。あのクールビューティーの本郷さんが、笑った!?」
男子4「やばい、笑顔もめっちゃ可愛い」
男子たちのひそひそ声が聞こえ、水輝がムスッとする。
水輝(朱莉の笑顔は、俺が独占したいのに)
朱莉「……どうしたの?」
水輝「いや、普段のあーちゃんも良いけど、笑ったほうがもっと良いなって思って。俺、あーちゃんの笑顔大好き」
朱莉「……っ」
朱莉(水輝ったら、大好きとかまたそういうことを軽々と……!)
水輝「あーちゃん、学年1位おめでとう」
朱莉は水輝に、髪をくしゃくしゃと思いきり撫でられる。
朱莉「ちょっと、髪がボサボサになるじゃない!」
水輝「あーちゃんのこと、えらいなぁって褒めてるんだよ」
朱莉「もう……」
呆れたように言うも、水輝に褒められて朱莉は嬉しく思う。
○学校の昼休み
キーンコーンと、チャイムが鳴る。
朱莉(つ、ついに来た……お昼休みが)
自分の席で先ほどの4限目の数学の授業の見直しをしていた朱莉の元に、水輝がやって来る。
水輝「あーちゃん、お昼食べよう」
朱莉(き、来た、水輝……!)
水輝にお弁当を渡さなきゃと思うと、緊張してしまう朱莉。
水輝「俺、購買にパン買いに行ってくるから。先に昨日の場所行ってて……」
朱莉「あっ」
朱莉(だっ、だめ!)
モジモジしている間に、教室の扉のほうに歩いて行こうとした水輝の手首を、朱莉が慌ててつかんだ。
水輝「あーちゃん?」
朱莉(勇気を出すのよ、私!)
朱莉「あっ、あの。これ……」
水輝に、青いバンダナに包まれたお弁当を差し出す。
朱莉「お弁当なんだけど、良かったら……」
水輝の顔が、パッと一瞬で輝く
水輝「あーちゃん、もしかして俺のために?」
朱莉「ち、違うから。今日は、いつもよりも多めに作り過ぎちゃっただけ!」
水輝「ふふ。素直じゃないあーちゃんも、可愛いなあ」※朱莉がお弁当をわざわざ準備したことを、水輝は分かっている。
朱莉「え?」
水輝「ううん、何でも。ありがとう、あーちゃん」
正直になれなかったものの、水輝の嬉しそうな顔を見て口元をゆるめる朱莉。
水輝「ねえ。せっかくだからこのお弁当、あーちゃんが俺に食べさせてくれたりは……」
朱莉「しません!」
水輝「ですよねー」
相変わらずな朱莉に、ガクッと肩を落としながらも微笑む水輝。
○昼食後、廊下
旧校舎の空き教室でお昼を食べ終えた朱莉と水輝が、教室に向かって歩いている。
水輝「ああ、美味しかったなぁ。あーちゃんが作ってくれたお弁当」
朱莉「あんなお弁当で良ければ、また作ってあげても良いけど?」
朱莉(って。なに上から目線で、言ってるんだろう。私ったらほんと可愛くない……)
水輝「えっ、いいの? 俺、いま家に一人だし。料理は苦手だから、助かるよ」
水輝の言葉に、歩いていた朱莉の足が止まる。
朱莉「えっ。水輝、家に一人って……おばさんはいないの?」
水輝「うん。母さんは今、義父さん……再婚相手と一緒に海外に住んでるから。俺は、10年前に住んでた家にひとり暮らしなんだ」
朱莉(そうだったの!? 初耳なんだけど)
水輝「義父さんが、日本とアメリカで会社を経営しててさ。芦原グループの社長なんだけど」
朱莉「芦原グループって、えええ!?」
目を真ん丸にして、珍しく素っ頓狂な声を出す。
水輝「えっ、そんなに驚くこと?」※首を傾げて
朱莉「あ、芦原グループって。あの有名な芦原グループ!?」
水輝「うん、まあ……そうだね」※苦笑い
朱莉(知らなかった……)
朱莉【芦原グループとは、食品や不動産など様々な事業を展開する、日本でも有数の大企業だ】
朱莉「まさか水輝が、有名な大企業の御曹司だったなんて……」
朱莉(びっくりしすぎて、腰が抜けそうになってしまった)
水輝「俺も母さんたちと最近までアメリカに住んでたんだけど、無理を言って単身で日本に戻ってきたんだ」
朱莉「でも、どうしてわざわざ? こんな高校3年生の、これから受験本番ってときに」
水輝「そんなの、決まってるでしょ?」
水輝が、唇を朱莉の耳元に近づける。
水輝「あーちゃんに……朱莉に、会うためだよ」
朱莉の耳元に囁く水輝。
朱莉(うっ。耳に息がかかってくすぐったい)
水輝「朱莉と一緒に学校生活を送りたくて、そのために俺はひとり日本に戻ってきたんだ」
朱莉(てっきり親の仕事の都合で戻ってきたのかとばかり思っていたら、まさかそんな理由だったなんて!)
水輝「俺、これからは勉強も朱莉のこともどっちも頑張る。朱莉を奥さんにするって夢は、絶対に諦めないから」
真正面から水輝に見つめられ、朱莉はゴクリと唾を飲みこむ。
朱莉(きっと、水輝は生半可な気持ちで日本に来たんじゃない)
朱莉【このとき私は、水輝の想いの強さというものを改めて感じた。】
真桜「……へえーっ。芦原くんって、あの芦原グループの御曹司なんだあ」
人気のない廊下で見つめ合う朱莉と水輝の二人を、離れたところから見ている生徒がひとり。(※第4話で登場した、クラスメイトの仲島真桜)
真桜「ふふ。これは何が何でも、芦原くんのこと、手に入れなきゃね。本郷さんには、渡さないんだから」
呟くと、真桜はニヤリと口角を上げた。


