あの桜の木の下で
――ガキンッ!!

刃と刃がぶつかり合い、鋭い火花が散った。

「ハッ、意外とやるじゃねぇか!」

俺の刀を受けた男が、獣のように笑う。だが、こいつはまだ余裕がある――ならば、迷うことはない。

「余裕ぶってんじゃねぇよ。」

俺はすかさず左足を踏み込み、相手の懐へと突っ込んだ。

ズバッ!

「ぐぅっ!」

胴を浅く斬った。だが、それでも倒れない。さすがは闇に生きる連中――普通の浪士とは違う。

「春樹、こっちは片付いたよ。」

背後から総司の声がする。振り向くと、彼の前にはすでに二人の倒れた敵。

「お前、やっぱり化け物だろ……」

「ふふ、どうかな?」

軽く笑う総司だが、彼の刀にはまだ血が滴っている。俺が一人を相手にしている間に、総司は二人を斬った――相変わらず、こいつは速すぎる。

「チッ……!」

リーダー格の男が舌打ちをした。

「テメェら、足手まといだ……!」

「はぁ、リーダーがそんなこと言っちゃうんだ?」

総司が挑発的に笑う。

「おい、春樹。あの人の相手、譲ってくれる?」

「お前……まだ戦う気かよ。」

「だって、"強い奴を狙う"んでしょ?」

総司の瞳が鋭く光る。

「……いいぜ。」

俺は一歩下がる。総司がこう言うときは、もう止めても無駄だ。

「はは……面白ぇ!」

リーダー格の男が刀を抜き直す。

「沖田総司……お前の名を刻むのは俺だ!」

「どうかな?」

――次の瞬間、総司の姿が消えた。

「なっ……!?」

「遅いよ。」

気づけば、総司はすでに相手の懐にいた。

シュッ!

「ぐあぁっ!!」

リーダー格の男の手首から血が噴き出る。

「……ふぅ、やっぱりそんなもの?」

「この……ガキが……!!」

男は残った手で刀を振りかぶる。だが――

スパッ!

「が……は……」

総司の刀が、男の首元で止まっていた。

「……終わり。」

静かに言い放つと、総司はゆっくりと刀を引いた。

リーダー格の男はその場に崩れ落ちる。

「はぁ……終わったか。」

俺は肩を回しながら、周囲を見渡す。

――戦いは、一瞬だった。

「……さて。」

総司が刀を鞘に収め、俺を振り返る。

「春樹、もう一本団子食べていい?」

「お前、まだ言うか。」

「だって、戦った後だし!」

戦いが終わったばかりだというのに、総司は本当に変わらない。

「……仕方ねぇな。」

俺は懐から銭を取り出し、女将に手渡した。

「おばちゃん、もう一本追加で。」

「はいよ! しかしまぁ、新選組さんってのは、本当にとんでもないねぇ……。」

女将は苦笑しながら、追加の団子を渡してくれた。

「ふふ、やっぱり戦いの後は甘いものが一番!」

総司は嬉しそうに団子を頬張る。

俺はそんな彼を横目で見ながら、再び湯呑みを手に取った。

「……俺たちも、いつまでこうして団子を食ってられるんだろうな。」

「ん?」

総司が不思議そうに首をかしげる。

「さぁ、どうだろうね?」

――この平穏が、長く続くことを願いながら。
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