推しが近所に住むなんて聞いてません!
日曜日、なんとなく、バーへと向かう。アイドルなら土日祝が休日と決まっていることはなさそうだが、なんとなく、今日なら猫屋くんに会えるかも、という気持ちが湧いた。
そんな期待を込めて、バーのインターホンを押す。開店前にお店へ行くのはどうかとは思うものの、あれから一週間バーへ通ったが、会えずじまいだった。バーの店主が気を利かせて、開店前でもきてくれていいよ、と言ってくれた。
少々ドキドキしながらインターフォンを押すと、ガチャリとドアが開く。
「あ、あんた..!」

ようやく会えた。猫屋くんだ。
帽子にサングラス。どこかへ出かけるのだろうか。
「あ、あの、この前は...」と言いかけたところで、

「ちょっと付き合って!」と言いながら猫屋くんに手を引かれる。

「ど、どこに行くの!?」と聞くと、
ムスリと振り返り、

「遊園地。」と一言。

わけもわからないまま着いていくのだった。

タクシーを呼び、乗り込む。
遊園地までは電車で乗り換え含め、40分くらい。
普段なら電車で行くところを、サラリ、とタクシーで向かうあたり、一流芸能人なのだな、と思う。

タクシーに揺られながら、「どうして急に遊園地なんか…プライベートなの?」と聞く。

「そうだよ。今度、ドラマに出演することになったんだ。一応主人公の恋人役なんだけど。俺、恋人とかいたことないし。そういうのよくわかんなくてさ。」

猫屋くんって恋人いたことないの!?今までの熱愛報道は!?と心の中で叫んでしまったが一応胸にしまっておく。

「でも演技には本気で取り組みたい。あんたとは別に恋人同士ってわけじゃないけど、参考になりそうだから。」

「だからって強引すぎるよ!ねこ…」

「猫屋くん」と言いかけたところで、唇に猫屋くんの細くて綺麗な指が触れる。

「マオ。今日は俺のことマオって呼んで。さすがにその名前はまずいから。」

そう言って徐々に唇から、指が離れていく。猫屋くんの綺麗な指が唇に触れたことで頭がいっぱいになり、硬直してしまった。

「…ふーん。もしかしてあんたも俺のファンになっちゃった?」とニヤニヤする猫屋くん。

「そ、そんなわけないでしょ!」とつい声を荒げ、猫屋くんを引き離す。驚いたのか、運転手さんの肩も跳ねた。

「ぷ..ははっ!顔真っ赤にしてあんたタコみたい」
と子どものように笑う猫屋くん。サングラス越しで目はよく見えないけど、心の底から笑っているようだった。

「..ふふ、あはは!」
と私自身も子どものように笑ってしまった。
こうして、急なことだけれども猫屋くんとデート?することになった。
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