推しが近所に住むなんて聞いてません!
それからは仕事で忙しくした。苦しい時間を埋めたかった。新規プロジェクトにも積極的に立候補し、仕事の勉強会にも参加するようになった。

「桜田さん、最近頑張っているよね、お疲れ。まだ帰んないの?」

その声でハッとする。気がつけばもう会社にはほぼ誰もいなくなっていた。

「あ、有元さん。お疲れ様です。もう少しだけ頑張ります。」

有元さんは、同じチームの2つ先輩。今までは必要最低限しか話さなかったが、新しいプロジェクトも一緒になり、勉強会でもよく顔を合わせる。気さくな爽やかイケメンで社内でも人気が高いらしい。

「あんまり、無理しないようにね。はいこれ」

そう言って差し出してくれたのはココア。てにふわりと暖かさが広がる。

「あ、すみません。ありがとうございます。」

ココアを見ると猫屋くんを思い出す。遊園地の日、ココアをくれたっけ。
つい、懐かしそうに微笑んでしまう。

「え、どうしたの?彼氏との思い出…とか?」

「あ、いえ違うんです。そういうんじゃなくて。ゆ、友人にもらった時のこと思い出して…!」
果たして猫屋くんを友人と呼んでいいのかわからないが、一応そういうことにしておく。

有元さんはぼそっと「よかった…」と呟いた。

思わず「え?」と聞くと

有元さんは顔を赤らめた様子で、
「あ、いや、なんでもないよ」
と焦った様子で言った。

「よかった」って私に彼氏がいなくてよかったってこと?いやいやそんなわけないじゃない。有元さんは社内1のモテ男。地味な私に興味なんてあるわけないない。

「僕もやり残した仕事があるんだ。一緒に残ろうかな」と言って隣に座る。

「もし行き詰まったら遠慮なく言って」
そう言って有元さんは微笑む。

「あ、はい。ありがとうございます!助かります。」

そう言って21時ごろまで仕事に打ち込んだ。
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