推しが近所に住むなんて聞いてません!
それから二週間ほど、私は仕事に没頭し、忙しさを言い訳にバーには行かなかった。
プロジェクトは無事に終わり、ようやく一息ついたところなので、仕事帰りに久しぶりによってみることにした。

「こんばんは〜」

そう言って、バーの扉を開ける。

「由美子ちゃん!いらっしゃい」

そう言って駆け寄るマスターはいつもより嬉しそうだ。

「あ、マスターご無沙汰しております。」

「本当に久しぶりだね〜。てっきりあゆむと何かあったんじゃないかと思ってたんだけど。」

そう言いながら座って座ってとカウンターに誘導するマスター。

「え、猫屋くん何か言ってたんですか?」
と問う。

「いやね、今日由美子さん来てないの?ってしょっちゅう聞くもんだから。来てないことがわかると、わかりやすく不機嫌になってさ。あいつは平然を装っていたようだけど案外寂しがりやなんだな〜」

「え、ああそうだったんですか..ちょっとここ最近仕事が忙しくて..あ、でも今日落ち着いたので、また通おうかな。」

そうマスターに伝えると、マスターは嬉しそうだった。

「あいつさ、ああいう性格だから、友達とか少ないんだよ。ファンだけは多いんだけどね。まあ無理ない程度に仲良くしてやって」

猫屋くん、待っていてくれたのか…。なんか申し訳ないことしちゃったな。そう思いながら、いつも通り、カンパリオレンジを飲む。それにしても猫屋くんは友達としてでも私と仲良くしたいと思ってくれていたんだ。なんだか、猫に懐かれたみたい。ふふ、と思わず笑う。
猫屋くんは私を必要としてくれている。これからは避けずに会いにこよう。そう思って私はそっと恋心に鍵をかけた。

物思いにふけりながら、お酒を飲んでいると、扉がカランと音を立てた。お客さんが来たのだろう。
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