推しが近所に住むなんて聞いてません!
「こんばんは。」
そう言って上品に入ってきたのは、栗色の美しいロングヘア。遠目からでもわかる長いまつげ。大きく澄んだ瞳。スラリとしたスタイル。
目を見張るほど美しくて、思わず見惚れてしまった。

「ありさじゃないか!何年ぶりだ?」

「10年ぶり、くらいかしらね。」

この美しい女性はありさというらしい。マスターの会話から察するに、二人は昔からの知り合いのようだ。

「パリから帰ってきたのか?」そうマスターが聞くと、

「ええ、1年くらいこっちで仕事することになって。..あら?」

そう言ってありささんは私の方に涼やかな視線を移す。

「ああ、紹介するよ。この人は由美子さん。うちの常連でね。歩夢と親しくしてもらってるんだ。」

「あ、桜田由美子と申します。よろしくお願いします。」

「よろしくね。私は藤崎ありさ。一応モデルしていて、ひろきとはいとこなの。よろしく。」

モデルと聞いて納得した。
「とっても綺麗ですね...モデルさんと聞いて納得しました。」
思わず、そう伝える。
「ありがとう」と優しく微笑みかけてくれた。

「ありさ、もう何歳になった?」とマスター。
「お客さんの前で歳聞かないでよ。今年で25よ。」

25!?私より年下なことに驚いた。それは彼女が老け顔というわけではなく、あまりにも大人びていたからだ。15歳でパリに渡った彼女は誰よりも、堂々としていて大人びていた。

「せっかくだし、あなたの年齢も教えて?」
そう言ってありささんは私の方に視線を送る。

「あ、今27です…」
そう告げると、ありささんはハッとした様子で、

「ごめんなさい!私年上の方に、いきなりタメ口で」

その姿はさっきまでの大人びた風格とは異なり、可愛らしい少女に見えた。

「いいんです。私そういうの気にしませんから。」
そう伝えると安心したように、
「よかった...そうしたら私にもタメで話してください。あ!お互いにタメでもいいですか?日本にあまり知り合いがいなくて...お友達になってください。」

ありささんは少し照れながら、そういった。

「う、うん!改めてよろしくありさちゃん。」

ありさちゃんはパアと顔を輝かせた。
くるくる表情が変わってなんて魅力的な人なんだろう。

「そういえば、あゆむはいないの?10年ぶりに会えるの楽しみにしてたのにな〜」

そう残念そうにありささんは言う。
その瞬間少しだけ心臓がどきりとした。もしかして猫屋くんの好きな人ってありささん…?
< 21 / 37 >

この作品をシェア

pagetop