推しが近所に住むなんて聞いてません!
「わあ…綺麗」
私がついそう漏らすと、

「喜んでもらえてよかった。僕のお気に入りの場所で、週末、よく来るんだ。」
と有元さん。

しばらく散歩し、砂浜に休む。有元さんは服が汚れないように、とレジャーシートを敷いてくれる。
本当に優しくて、スマートで、女性人気も高いのに、どうして私なんだろうと思ってしまう。

「…前に、言ったこと覚えてる?僕がどうして桜田さんが好きか教えるって話。」
有元さんは座るや否や、話を切り出す。
「はい。覚えてます。有元さん人気者なのに、どうして私なんだろうってずっと思ってました。」
今日は正直この話題で頭がいっぱいだった。

「きっかけはねとっても些細なことなんだ。会社の前に落ちてたゴミを拾ってゴミ箱に捨てた桜田さんを見た時。」

全然覚えていない。多分無意識に目に入って捨てたんだと思う。

「正直、外に落ちているゴミをわざわざ拾って捨てる人がいるんだ!ってその時は本当に驚いた、というか尊敬したんだ。ビルに入るとまさかの同じフロア。同じ会社の人だったんだってびっくりしてね。ほらその時は部署も違ったし、知らなかったんだけど…」

「その時に初めて、桜田さんを知った。興味が湧いて、気がつけば目で追うようになった。誰もが気づかないところに気配りができて、誰もいない場所でも、誰かのために取り組む桜田さんを知ったんだ。僕は昇進とか誰にどう思われるかとか、そんなところにばっか気が入ってしまう人間だがら、無欲にそういう行いができる桜田さんのことが好きになったんだと思う..。あ、ごめん長々話しちゃって..」

そういうと有元さんは申し訳なさそうな顔をしたが、私は素直に嬉しかった。そんなところまで見てくれてた有元さん。こんなにも思ってくれてたんだ、と思うと、自然に胸が高鳴る。

「あ、ありがとうございます。そんなふうに言われるとなんか照れますね…」

そう言って有元さんに微笑む。本当に心から嬉しかったのだ。

その時、空は刻一刻と夕方に迫っていた。
光は徐々にオレンジ色になり、有元さんの真剣な眼差しに反射して、とても綺麗だった。
その眼差しに吸い込まれるように見入っていると

「...?」

ほんの一瞬の出来事で、何が起きたのかわからなかった。
唇に何かが触れた。

…私有元さんとキスしてる?
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