推しが近所に住むなんて聞いてません!
それからは、無心で過ごした。会社で有元さんと会うのは気まずかったが、いつも通りに接してくれるので、次第に緊張はほぐれていいた。
猫屋君はあんなことがあっても、テレビの中では、いつも通り猫をかぶっている。プライベートを引きずらないのはさすがプロだ。

バーにはまた行きにくくなってしまっていたが、ある日の会社帰り、駅でありさちゃんと会った。

「由美子さん…?やっぱり由美子さんだ!久しぶりね。」

そう言って後ろから声をかけられる。

「ありさちゃん…!久しぶり」

「どうしたの?最近バーに来ないけど。」

ありさちゃんにそう言われて、「色々忙しくて。」と誤魔化す。

「せっかく会ったし、ちょっとお茶しない?」

「最近行きつけのカフェがあるの」と手を引いてくれ、一緒にお茶することになった。

座るなり、ありさちゃんは「あゆむと何かあったんでしょ?」と聞いていきた。

図星だ。有元さんの時もそうだったけど、私ってわかりやすいのかな…?

「え、いやそんなことないよ」

と一度否定したものの、「嘘。」ときっぱり言われてしまった。

「前から思ってたんだけど、由美子さん、あゆむのこと好きなんでしょ?」

「…!」

ふふ、と微笑んでありさちゃんが紅茶を飲む。

「やっぱり〜。初めて会った時、あゆむにハグしたでしょ?私。由美子さん嫌そうだったもん。それきり会わなくなっちゃったし、嫌われちゃったかと思ってた。」

悲しそうに言うありさちゃん。

「猫屋くん、前に探している人がいる、って言ってたんだ。その時はてっきりそれがありさちゃんだと思って、ちょっと苦しくなっちゃって…ごめんなさい」

そう告げるとありさちゃんは

「あはは。あゆむの好きな人が私だと思ってたんだ。違うわよー。そう言ってもまあ私は一回振られてるんだけどね。」

そう言って儚げな表情を見せたあとすぐ明るい表情に戻った。

「そうなんですか?」と聞くと

「そうそう。今はもうそう言うのないし、あゆむより100倍かっこいい彼氏もいるから安心して!」

それを聞いてちょっと安心した。
それでもやっぱり気になることがあった。

「あのありさちゃんっていつから猫屋君と一緒だったんですか?」

猫屋君の過去だ。私はそれが気になっていた。

「私から言っていいのかわからないけど、まあ由美子さんならいずれわかるし、いっか。あゆむ孤児なのよ。幼い頃に両親を亡くしてね。ずっと孤児院育ちだったの。あゆむが12歳くらいの時かな?宏樹が迎えに行ったのよ。実は宏樹と歩夢は遠い親戚でね。あゆむは最初は無口だったけど、歌がすごくうまくて。私が初めて会った時は、私がパリへ行く直前。宏樹に弟ができたって聞いたから、遊びに行ったの。」

懐かしそうにありさちゃんは続ける。

「きっと悲しいことがたくさんあったはずなのに、アイドルの夢を語る時はキラキラしてた。私もトップモデルを目指す夢があったから、次会うときは、お互いにトップになろうって約束して。私の夢がかなった時、歩夢もトップアイドルになっていた。その時に電話で私の気持ちを伝えたんだけど、断られちゃってね。でもそのあとはお互い頑張ろうってなって、友達みたいに戻れたわ」

「そう、だったんですか。」

ありさちゃんはまた、紅茶を一口飲んで話を続けた。

「その時もあゆむ言ってたわ。探している人がいるって。ずっと好きな人がいるって。夢を追うきっかけをくれた人ですって。」

こんなに綺麗で、性格も良くて、素敵なありさちゃんを振るなんてよっぽど好きな人がいたんだ。
そんなことを考えると落ち込む。

「…案外近くにいるのかもしれないけどね。」

そうありさちゃんが遠くを見て呟く。どう言う意味だろう?

二人とも紅茶を飲み終えたところで、退店した。

去り際に、「話さないと想いは伝わらないわよ。誤解とかもあるかもしれないけど、一度ゆっくり話してみたら。応援してるから。」

ありさちゃんはそう言ってくれた。
そうだよね。ずっと誤解があるままじゃだめだ。猫屋君とはどうなるかわからない。振られるかもしれない。

でも自分の気持ちに嘘をつくのは嫌だ。
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