推しが近所に住むなんて聞いてません!
17歳の夏、ボランティアで孤児院、ひまわり荘を訪れた。子どもたちは思っていたよりも明るく、鬼ごっこや、かけっこをしてたくさん遊んだ。ひまわり荘は海の見える丘のうえに建てられていて、とても美しい場所だった。
自然豊かで、日々の疲れが吹き飛ぶような、そんな場所だ。

休憩時間、私は近くを散歩していた。人気のないひまわり荘の裏側へ足を踏み入れようとした時、とても美しく、儚い歌声が聞こえた。歌声だけでは、声の主が男の子か女の子かわからなかった。
歩み寄ると小学校の高学年くらいの男の子がぽつりの海を見ながら口ずさんでいた。孤児院の子だろうか?

私は近づいて、
「上手だね」

と微笑みかけた。


その男の子はビクッと肩を振るわせて、こちらを向く。
猫のように美しく吸い込まれそうな瞳がとても印象的だった。

「うるせえな..あっちいけよ!」
と男の子は言う。
きっと色々事情があったのだろう。人と話すのがかなり苦手そうだった。
それでも私は話を続けた。

「ずっと聴いていたいな。将来きっとみんなを幸せにできるよ」
そういうと、男の子の目が少しだけ見開く。

「ほんと?」

「うん。そうしたらお姉さんきっと見にいく。君だってわからなくても、絶対見に行っていると思うな。」

「じゃあさ、大人になって僕が成功して、お姉さんが見つけてくれて、きっと出会えたら、その時は僕のお願い聞いてくれる?」

「いいわよ。何かな?お願いって」

「秘密。」

そのあとはこんな会話をしたと思う…。名前を聞くことも叶わなかったあの子。ずっと忘れていたのに、魔法のように記憶が蘇る。

声変わりもして、背も伸びて、顔も大人びたけれど、
その時の吸い込まれるような瞳と同じ目をした人物を私は知っている。

「ごめん、お母さん!私行かなくちゃ!」

「ちょっと由美子!」

引き止めるお母さんには申し訳ないが、私は急いであのバーへと向かったのだった。
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